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 ぽかぽかな陽気に包まれて今年も春がやってきた――――
 

 春と言えば何が思い浮かぶかな?

 やっぱり花見や入学式が一般的だよね。

 皆で出来るだけ騒いだり、新しい出会いに緊張しながらも期待したり。


 それが普通だよね?

 そう思うと私達が経験したことは、それと相反するんだなぁって感じる。

 

 

 皆がうかれてる時に私、藤林杏と岡崎朋也は別れたんだから。

 

 

 

 

 

 


杏葉紋

 

 

 

 

 


 高校を卒業し
 

 私は保育に関わる仕事をするための学校に進学した。
 

 あの町と比べる事自体おこがましいであろう大都会に。
 

 都会は人が一杯いる――今時小学生だって知っていること。
 

 ラッシュ時は隙間がないくらい人がアスファルトを覆う、きっと上から見たら大きな一塊が蠢いているように見えるだろう。
 

 どこからともなく塊が現れてどこかへ消えていく、一塊を形成しているヒトツである私も知らない。
 

 きっと誰も知らないのだろう、他人に興味がないから。

 


 無機質なコンクリートジャングルは感情を奪っていくのだろうか。

  上京する前はあんなに朋也と離れるのが嫌だったのに、今は、ヨクワカラナイ。

  昔は頻繁に電話したり連絡をとっていたのけど、気づけばもうしてないし、向こうもしてこない。

  朋也はそのまま就職、工場でせっせと部品を組み立てている。

  ずっと立ち仕事で休みも少ないし、労働時間も長い。

  かく言う私も、朝早くに電車で学校、夜は高い物価水準の都会で暮らすためアルバイト。はっきり言って余裕がない。

  だからだろうか、私達はすれ違いだし、お互いへの励ましや軽口も無くなりやがて連絡もしなくなって、

 

 

 最後、電話で別れを告げた。

「もう、別れましょ」 

「そうだな」

 


 直接会って言うわけじゃないし、声だけだからなのか何とも思はない。

  朋也もそうなのだろうか、感情が伝わってこない。

  前は一緒にいるのが当たり前だったのに、今はいないのが当たり前、変なの。

  学校はやりたかった保育の講義だから楽しいし、友人もできた。
 
 

 だけどが『何か』が物足りない。

  それが分からないまま、日々のサイクルをこなしていった――
  

 

 

――始まりがあれば終わりが来る、いつしか私は教育課程も修了し町に戻ることとなった。

  戻ってみると道は数人が歩いているだけ、商店街はがらがら。

  それはそうだろう、長い間都会の生活に慣れ、人ごみのなかを歩いていた私にはそれが日常だったんだから。

  だけど懐かしいくもあるかな。  

 

 春、町での保育士としての生活が始まった。

  講義で子供の行動心理や成長など学んだが、実際は予測の斜め上を行く子供に慌ててしまう。

  先輩の保育士は流石に経験の差があり、どんな場合も冷静に対処している。
 

 情けないし、一体何を学んできたのか分からない。
 

 正直落ち込む。 

「大丈夫、私も最初はそうだったから」と先輩は励ましてくれる、

 情けない自分から脱却すべく、私の戦いの毎日が始まろうとしていた。

 

 

 


 そんな矢先だ

 

「あっ、杏?久しぶり〜」

 

 アイツ、ヘタレから電話がきたのだ――――

 

 

 

――

 

「あら、ゴキブリ、久しぶりじゃない。今度どうやってゴキブリホイホイから脱出してるのか教えてよ」 

「そうそう、最近のは粘着力が強くて苦労してるんだよね、って誰がゴキブリだよ!つかゴキブリホイホイに捕まったことすらないよ!」 

「とうとう、ノリッツコミまで覚えたんだ。早いわねぇサルのくせに」

「だから僕は人間だってば!」 

「はいはい。で、自称人間が何の用?つまらない用事だったら辞書投げるわよ」

「いくらなんでも遠く離れているのに辞書が飛んでくるわけ…ヒュン、ぶべらっ!」

 「よし、手ごたえあり。腕は鈍ってないわね」

 「って何でもう投げてんだよ?しかも当てるなよ!」

 「ああん、もういっちょいっとくか?」

 「ひいいいいいいぃぃいいいぃいいいぃぃいぃいい」 

「相変わらずヘタレねぇ、でなんの用だって?」

 「ったく、やっと本題に入れるよ… 明後日、近くまで出張でそっちに行くんだ。だから泊めてくれないかな〜なんて」

「やっぱもういっちょいっとくか」

 「ウソです、ゴメンナサイ。本当は近くに行くから話がしてみたくて」

「アンタが話?気味が悪いわね、頭が腐った?」

 「腐ったら生きてませんから!とにかく、商店街にある喫茶店に明後日の18時に来てよね、それじゃ」

 「ちょっと、待ちなさいよ!」

 もう、ツーツーと無機質な音しか聞こえない。

 陽平のくせに私より先に切るなんて生意気じゃない、悔しいので辞書を二冊ほど投げておいた。
 

 

 

 

 そして私は陽平に言われた喫茶店で待っている。 

 だけど約束の時間を30分過ぎても来ない。 

 私を待たせるなんていい度胸してるじゃない、今度はこの広辞苑で…と体から黒いオーラを放ちながら広辞苑の手入れをしていると

 

 

 

――カランッ

 いらっしゃいませ。

  

「陽平ー遅いっ!」 

 言葉より先に手から広辞苑が放たれる、

 「うわっあぶねえ」

 「よけるなんて生意気じゃない、次は六法全書で……ってとも、や?」

 

 何で朋也がここに?私は陽平と約束してたはず。
 

 

 あれ?そもそも陽平って出張できるほど働いているの?

 

 

 もしや騙された?

 

 一人でうんうん唸っていると、どうしたらよいか困ってる朋也をそのままにしていた。
  

「とりあえず、ここ座る?」

「俺も春原が来いっていうからきたんだが」

 

 どうやら朋也も陽平に一杯食わされたらしい。 

 アイツ、何のために…

 

「そういえば久しぶりだね、朋也…」 

「そうだな、会うのは卒業して以来かな…」

「………」

「………」

 

 本当に久しぶりにあったから何を話していいかわからない

 以前はどんな風に話してたっけ。

「ここもデートでよく来たよな」

「…そうね、よくきた。」

 そういうと朋也はカフェラテを注文し温度計針を借りたいと店員に頼んだ。 

 コポコポコポと調子よく注がれているのが聞こえてくる。 

「お待ちどうさまでした、カフェラテになります」 

 運ばれてきたカフェラテの泡に温度計針ですいすい何かを書いていく。 

 真剣な顔で男が何やってるんだろ、でも真剣な顔は始めてかも。 

「ほら、出来た」 

 少し緊張したような顔でカップを見せてくる。

「これは、"杏葉紋"?」
  
"あたし"の名前の樹の葉を象った紋、 

 

 

 


 あれ?

 何でだろう?

 頭のもやもやとした霧が…晴れていく…

 そういえば何で朋也と別れたんだっけ、すれ違い?

 

 ううん、本当にワカレタ?

 

 

 

 

――『だから約束、もし相手を見失ったら……』

 これはあたしの声? 

 

 

 

 

 そうだ、あの時の約束…

 

 思い、出した。

 

 何のために髪を長く伸ばしていたのか、何故あんなに料理をがんばっていたのか
 

 なぜ、朋也の腕があたしの場所だったのか。
  

 なぜワカレタと思い込んでいたのか。 

 思い出した、足りなかった『何か』取り戻したよ。

 

 そして 

 

 全部、ぜんぶ朋也はあたしのために…

 

「ごめん、ごめんね朋也、私、思い出したよ。忘れてたこと全部、朋也のこと」

 泣きながら朋也に抱きつく。久々に味わう感触、ひどく懐かしかった。

 そうだ、この場所はあたしだけのもの、手放してはいなかった―――

 

 

 

 

 

――――杏は上京してすぐ事故にあった。

 

 バイクで交差点を右折する時に対向車と接触、頭を強く打ち、体じゅう怪我や骨折をしたが命には関わらなかった。

 ただ脳にいくつかのダメージを残して。

 俺にも知らせが来て、すぐに向かった。

 

「あんた、だれ?」

 

「?俺だよ杏、朋也だよ、岡崎朋也!」 

「違う、朋也とは別れた。もうずいぶんと連絡取り合って無いし」 

「はぁ?昨日もあれだけ電話しただろ。そしたらさ、声がうるさいって大家さんに叱られてたじゃんか。杏、ほんとに俺が分からないのか?なあ 杏っ!」 

「岡崎くん、落ち着いてください、お姉ちゃんは頭を打ったショックで記憶が混乱している状態なんです。医者は一時的なものですぐに良くなるっ て」

 隣で椋が説明してくれるがまったく耳に入ってこない。

「杏っ、杏!」

「っ!!」

 

――パァン

 

 頬が痛い、殴られた方向をみると椋の目から涙がぼろぼろこぼれだした。

「岡崎くん!岡崎くんはお姉ちゃんの一体何なんですか?彼氏でしょう、こんな時あなたが取り乱してどうするんですかっ?」

「…わりぃ、取り乱した。そうだよな俺は杏の彼氏なんだ、杏を支えないと」 

 普段からは想像できない椋の一発で目が覚さめた、椋だって辛いはずなのにな。

 

 

 

 

 それから二週間もすると杏は色々なことを思いだせるようになった。 

 椋のことや両親、学校の友人… 

 だけど俺のことは分からないまま、杏の中では俺とはすでに別れた事になっているらしく 

 会っても、電話しても『岡崎朋也』だと分かってもらえなかった。 

 それでも俺はあきらめずに毎日電話をし続けたが、気味悪がられ電話番号を変えられてしまいどうすることもできなくなっていた。 

 医者が言うには脳の小脳と呼ばれる部位が記憶を引き出すらしいのだか、この働きが鈍くなっているらしい。 

 回復する可能性はあるが、可能性にすぎないとまで言われた。

 

 
 俺は死刑を宣告されたような気分だった。

 もう杏に名前を呼ばれることも、抱きつかれる事も、愛を伝えることもできないのだ。

 それに工場で働いている身としては、有給も取れないし会いに行って支えてやることもできない。


 
――だから俺は待った、杏がこの町に戻ってくる時を。

  戻ってきた杏は最後に会った時よりも幾分かは回復していたが、まだ俺が分からない。 

 でも会う回数を重ねるごとに、だんだんと俺を思いだしていった。

 

 それは杏が上京する前の俺の姿。今の『俺』とは依然として別れたままなのだ。 

 俺はあきらめずに次々と思い出の場所に杏を連れていった。

 商店街、ボタンと出会った場所、学校、恋人になった中庭…

 どれも大切な杏と過ごした大切な場所だ、

 

 


 

――そういえば久しぶりだね、朋也…

―そうだな、会うのは卒業して以来だな…

 

 

――そういえば久しぶ…

―そうだな、会うのは…

 

 

――そうい…

―そう…

 

 

 

 どの場所でも同じセリフが出る。

 俺達は前に進まない、過ぎ去ったとこから一歩も。

 彼女の中でリセットされてしまうのだ。

 都会の学校に行かせてしまったことを後悔したこともある、

 しかし、俺まで過去にとらわれてはいけない。

 前に進まなきゃ、杏と一緒に進むんだ。 
 

 けど、もう行くあてがない。

 

 

 どうしたらいいんだ俺は…

 


 そんな時だった、春原が電話をしてきやがった。

 

 

「岡崎、ちゃんと休んでるか?」

「何故お前に体調を心配されなきゃならん、ヘタレに」

「ヘタレは関係ないよねっ!で杏の様子はどう?」

「相変わらずだ、商店街、ボタンと出会った場所、学校、中庭、どれもダメだった

「まだ行って無い場所があるだろ、岡崎。忘れたのか?」

「どこだよ、もうこの町で杏と過ごした場所は全部行った、全部だ」

「お前、本当に忘れてるのか?喫茶店だよ、商店街の。良く僕に惚気てたじゃないか」

「ああ、そういえばよく行ったな。そこでよく………! まだ"アレ"が残っていた!」

「まだ残っているものがあるんだろ?杏は呼び出しておくから、しっかりしろよ」

「ああ、じゃあ杏のことは任せたぞ」

「頑張るのはお前だからな、わかってるか?」

 

 上から目線の春原に殺意がわき、電話をブン投げた。

 後で修理代請求してやる。


 そして俺は一抹の希望をあのラテアートにかけた――――――

 

 

 

「忘れててごめんね、ずっとあたしの傍にいてもらったのに分からなかった、ずっと同じこと言って困らせてた」

「いいんだ、杏もちゃんと約束守ってくれただろ」

 

 

 いろんな場所に連れて行ってもらったのにあたしはいつも忘れて思い違いしてて

 

 だけど

 もう冷めてしまったカフェラテの泡に刻まれた杏葉紋がおしえてくれた約束…

 

 

 


――みてみて、朋也、面白いでしょ。

―うおっ、何だそれ?

――ふふん、ラテアートっていうのよ。朋也もやってみる?

―俺だってこれくらい……あれ?難しくないかこれ。

――あーもう、そんな強くやるからよ。もっと優しくやるんだから。

―むう、そんなこと言われても難しいものは難しいぞ。

――あっはっは、やっぱ朋也には無理かしらね〜

―俺をなめるなよ、こんなもんすぐにマスターしてやるからな。

 

 

 


――朋也も随分上手になったわねぇ。

―だろ?これでも毎日練習したんだからな。

――ぷぷっ、男が毎日ラテアートってあははははー、朋也くん、いつからそんなに乙女になっちゃったのかなぁ?

―うるせぇ、お前のためだろうが!

――はいはい、照れない照れない。

―くそっ むかつく女だ…

――ねえ、朋也、あたし達のマークを作ろうよ。

―マーク?

――そう、マーク。願いを込めて。

―…だったらこんなのはどうだ?杏の葉が二つ左右抱き合わせた形とか。

――なんか家紋っぽいけどいいわね。それで、こっちが朋也でー、こっちがあたしー。

―で、願いを込めるんだろ、何にする?

――そうねぇ、もしあたし達がこれから相手を見失ったら、これを思い出しましょ。再び"一緒"になれますようにって。

―ま、そんなことなりそうもないけどな。

――分からないわよ、案外すぐに朋也振っちゃうかも〜。

―なっ!お前ふざけんなよ。

――冗談、冗談。もしそうなってもこれを思い出してすぐに戻ってくるから。

―結局、一回別れるじゃないか…

――あはははー、大丈夫そんなことありえないから。だから約束、もし相手を見失ったらこのマーク"杏葉紋"を思い出し再び一緒になること、いい わね。

―いいけどよ、その名前マジで家紋っぽいからな。あとセンスねぇ

 

  

「ひっく、ともや、ともやっ、ともやっ〜」

「泣くなよ杏、らしくねえなぁ」 

 

 杏を落ち着かせるため、店を出てすこし歩いた。

 二人で夜風に撫でられる、春と言っても風はまだ冷たい

  あーもう、鼻水ダラダラだし、泣きすぎて目は真っ赤。

 どうしようもないくらいひどい顔してる

 

 だけど

 俺も泣いてもいいよな?

 

「ひっく、と、もや、ただいま」 

「あぁ、おかえり、きょう――」


 やっと、やっと"杏"が戻ってきたんだから。

 

 


 

 

「ねえ朋也、あたしまた朋也の事忘れちゃかもしれない」

「………」

「だから、もう一回約束しよ」

 「もし相手を見失ったら"杏葉紋"を思い出して再び一緒になること」

  すっと小指を差し出す。

 いつ以来だろうユビキリなんて。

  面食らったのか朋也も苦笑いしてる、泣いて目が真っ赤のくせに。

 あたしもだけど…

 

「ん、約束だ、また思い出させてやる」

 「うんっ」

 

 

『ゆーびきったっ!』

 

 

 彼にとって平坦な道ではなかったであろう。

 それでもあきらめずについていてくれた朋也に感謝の意味を込めて

 あたしの変わらぬ愛を示すキスをする。

  久々で、変わらないキス。 

「朋也、ずっと一緒だからね」

  腕に強く抱きつく。

  もう離れないように、忘れないように。

「お前、腕に抱きつくのすきな」

「うん、"ここ"はあたしだけの場所だから」
 

 

 

 そう

 "ここ"には、希望と明日が待っているから。

  そうだよね?朋也――――

 


fin

 

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