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朋也と智代のドキドキ夢水族館パニック!! 〜愛は春原をそこはかとなく救う〜

 

作:深海ねこ

 

 

「まず先に言っておくが、この作品の本作のタイトルと内容には殆ど関連が無いことを、ここでお詫びしておく。
また、当然の如くキャラ崩壊が起きているので、原作のイメージを壊したくない人は見ない方が身のためであることも付け加えておく。
最後に、この作品はフォントの大きさを変えることで、「ここで笑えよ」と強要している。そのような作品が嫌いな人も、見ない方が身のためだ」

「………智代、誰に話しかけているんだ」

「なに、物語の枕代わりに、読者への諸注意をな。それより、バスの時間は調べてくれたか?水族館から少し離れているバス停でも構わないぞ」

 そう、俺たちはこれから、県立の水族館へと向かおうとしていた。

 智代の誕生日が近いということで、誕生日プレゼント代わりにデートに誘ったのだった。

「朋也にしては気が利いているな」という言葉は、彼女からすれば最大級の褒め言葉だろう。

(………水族館行きのバスの時刻を調べ忘れなければ、もっとカッコが付いたんだろうけどな)

 しかし今更悔やんでも仕方がない。

 30分後、俺たちは無事水族館行きのバスに乗ることができた。

「ふふ、年甲斐もなくわくわくしてしまうな」

 30分待ったことなどたいしたことじゃないと言わんばかりに、珍しく智代がはしゃいでいる。

「そこまで楽しみにされるとは思わなかったな」

「うむ………実は、初めてなのだ」

 え?

「………なにが?」

「水族館へ行くのが、だ」

 そう言って、少し苦笑した。

「お前………」

 お前んちはどんな家庭だったんだ、と言おうとして、以前智代に話して貰ったことを思い出した。

 温もりのない家庭。

 愛情をかけられずに育った智代。

 当然、家族でどこかへ出かけるなどあるはずもない。

 とすれば、このはしゃぎっぷりも、恐らくは前日眠れなかったことによって出来た目の下の隈も、無理もないことだと言えた。

「………智代」

「ん?」

 表情を元に戻した智代が、こちらを向く。

「今日は、思いっきり楽しむぞ」

 智代は両の手に握り拳を作り、にやりとした。

「望むところだ」

 

 

 大人2枚のチケットを買い、入り口のゲートをくぐる。

 智代の方を見ると、既にテンションがMAXになっている。

 渡したチケットは、哀れ握力の餌食となっていた。

 まずは順路の指す方向に歩いて行く。

 やがて見えてくるのは、大パノラマの水槽。

 大小様々な魚が、所狭しと泳いでいた。

「お………おおお………」

 この圧倒的な空間に、智代が驚きの声をあげていた。

「どうだ?やっぱり生で見ると違うだろ?」

 そんな俺の言葉も、耳に入っていないようだ。

 ひとしきり、震えるほど感動した後。

「と………朋也」

「ん?」

「これは本当に食べ放題なのか?」

「………は?」

 なにやら話の風向きがおかしい。

「あの水槽を泳いでいるのは、本当に食べ放題なのかと聞いている」


どこの大衆向け飲食店だよ。

「………ひとつ言っておくが、喰ったら犯罪だぞ」

「なんだと!?聞いた話と違うシステムだな………」

 システムって言うな。

「そんな話、誰から聞いたんだよ」

鷹文(※1)から」

あいつかあああぁぁぁッ!!

 とりあえず、俺は智代に水族館のシステムを改めて説明をした。

「なんと………『水族館』とは、お魚食べ放題の店を総称して言うのではないのか

 よし、とりあえず後であのバカ弟シメる。

「普通に魚を鑑賞するだけだ、残念ながら」

「ぐっ………この日のために、3日前から食事を抜いてきたというのに

 お前気合い入れすぎ。

 

 

「ハムッ、ハフハフッ、ハフッ………!!」

 ………まさか水族館に来て真っ先に飯を食う羽目になるとは思わなかった。

「ふう、人心地がついた。さあ、他に見るモノもないし帰るか、朋也」


待て。

「………あと15分したらイルカショーをやるってさ。せっかくだから見に行かないか?」

食えないのなら興味がない(キリッ)

 食欲の権化は非情である。

 っていうか普通、俺の台詞って女子側の台詞じゃね?

 

 

 なんとか智代を説得し、イルカショーの会場へと歩いていく。

 途中、順路内の水槽を見ては「じゅるり」と舌なめずりをした後、「………食べられないのか」とあからさまにがっかりする様を何度となく見せつけられたりもしたが。

 それでも、ギリギリでイルカショーの時間には間に合った。

 飼育員がひとしきりイルカの紹介をした後、ジャンプをしての輪っかくぐりや、空中での回転など、お決まりの芸を披露させていく。

「おおーっ、見たか智代、今の。やっぱり迫力あるなあ、イルカショーは」

「………刺身にしたら何人分だろうか

 今の時期(※2)その話題はマズイだろ。

「それはさておき、なかなかの運動能力だな、あのイルカは」

 そう、そうだ智代!!そういうところを見て欲しいんだ俺は!!

「どれ、私もちょっとやってくる

 え?

 俺が疑問を挟む隙もなく、智代はジャンプ一番水槽に飛び込んだ。着衣のまま。

 どっぱーん!!

 飼育員も観客も、余りの出来事に唖然としている。

 水槽の中は若干濁っており、よく見えない。

 15秒ぐらいしただろうか、ぶくぶくと泡が出てきたかと思うと。

 ざっぱあああん!!

 尋常じゃない水しぶき。

 その中で飛び上がる二匹のイルカ。

 その二匹のイルカの鼻先に立つ着衣の女、というか智代。

 ああ、俺の彼女は15秒でイルカを手なずける女だったのか。

 元より人間の範疇で図れないところが多々ある女性だったけどなあ(遠い目)

 しかし客にはサプライズイベントとして映ったらしく、大好評のうちにショーは終了した。

 智代はというと、他のイルカと一緒にご褒美のサバを生きたまま貰っていた。

 

うむ、やはり魚は生に限る

 まずそのびしょ濡れの服をどうにかしてください智代さん。

 結局あの後係員から「着衣はマジ危険だからやめとけ(※3)」と怒られてしまった。

 ………飛び込んだこと自体はおとがめ無いのか。

「こうしてみると、水族館もなかなか捨てたもんじゃないな。これはこれで楽しいぞ」

 そんな楽しみ方してるのは世界中でお前だけだ。

 それはともかく、俺たちは順路を進み、デンキウナギの水槽へ来ていた。

 ほら、よくあるだろ。

 電気メーターが付いてて「今○○ボルト出てますよ」というのが分かるやつ。

 あれが今、俺たちの目の前にある。

 智代はと言えば、じっとデンキウナギとにらめっこをしている。

 ああ、どうせ食べることを考えているのだろう。

 どうやって引きはがそうか………そんな考えが頭を巡っていると。

 どぼーん

智代が実力行使に出ていた。

 って、さすがにマズイだろっ!!

 突然自分の水槽に何者かが侵入して、デンキウナギが平静でいられるわけはない。

 当たり前のように、外的を排除しにかかる。

 ピピピピッ!!

 突然大きな音がしたかと思うと、メーターが勢いよく反応し、赤く「500V」と書いてあるラインまで到達していた。

 こんな放電を喰らっては、智代と言えどもひとたまりも………。

 しかし智代はさすがに人類を超越した存在だった。

 これだけの電気を喰らいながらも、デンキウナギを鷲掴みにすると。

ふんがあああぁぁぁっ!!

 少しは自分が女子ってことを意識してくれ。

 そんな、北京原人とジャワ原人を足して2乗したような声を出しつつ、智代はウナギを水槽から放り投げた。

 そして悠々と水槽から出てくる。足下にはびちびちと跳ねるだけのデンキウナギ。

「………なかなか良い攻撃だったぞ。まあ、私には効かんがな

 何を勝ち誇ってんだお前は。

 ………デンキウナギは俺が感電しながらも元の場所に戻しておいた。

 

 

(飯だけ食って帰れば良かったかなあ………)

 今俺は、猛烈に後悔していた。

 あの後も、水槽にいるジンベイザメに戦いを挑みそうになったり

 いたずらにヒトデを手裏剣代わりに飛ばしてみたり、

 それを見ていた係員とたまたま通りがかりの風子に怒られたりと、

 さんざんな一日だった。

 ………その割に、もう夕方か。

 智代にしてみれば、期待していたモノと違っていたぶん、早く帰りたかったのではないか。

 そう、思っていたのだが。

「朋也………」

 今までとは違う質の声が、後ろから届く。

「どうした?」

 俺の言葉に、気恥ずかしそうに手をもじもじさせると。

「今日は………その、ありがとう。そして………すまなかった」

 そう謝った智代の気持ちは、今にしてみればよくわかる。

 たとえば、子供というのは、ひどく思い込みが激しくなるものだ。

 それが、楽しみにしているものであれば、尚更である。

 過剰なほど、まだ見ぬイベントに理想を求め続ける。

 そして、いずれやってくる、現実とのギャップ。

 そこで気持ちを切り替えることは、なかなか誰にでも出来る事じゃない。

 ………そう考えれば、これまでの智代の奇行は、智代なりに折り合いを付けた形で、精一杯楽しんだ結果だったのだろう。

 だから、俺は智代の言葉には触れずに、

「また、来ような」

 次に、来たときには。

 きっと、今日とは違った顔を見せてくれるだろう。

 だから、今は。

「あ………ああっ。また、来るぞ。絶対にな」

 今日の最後に見せてくれた、その笑顔で手を打つことにしよう。

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ朋也。………ひとつだけ、お願いがあるんだが、いいだろうか」

「おう、何でも言え。そもそも今日はお前の誕生日プレゼントのためにあるんだ。遠慮なんかしなくていいぞ」

「そうか………分かった」

 そう言うや否や、どこに隠し持っていたのかロープを手に取り、目にもとまらぬ速さで俺を縛りだした。

「お、おいっ!!何するんだよ!!」

「いや、何でも言え、というからな。水族館名物のファイヤーダンスの生贄になってもらおうと思って」

そんな名物初耳だぞおい。

「生贄なら俺じゃなくてもいいだろ。春原とか、適当なのがいるだろ(※4)

「自分が一番好いている者を生贄にしないとダメだと、鷹文が」

またアイツかああぁぁぁぁぁッ!!

 とかやっている間に、ロープでぐるぐる巻きにされてしまっていた。

 智代は俺を嬉々として持ち上げ、これまた、いつの間にか用意してあった磔台にくくりつけていく。

よし、これで恋愛成就間違いなしだな

その対象が死ぬことに関してはどうでもいいのかッ!!

 そんな俺に智代はお構いなしに水族館全体に火を付け、左手と右手を前に交差させ、内股でよちよち歩きながら奇声を発している

 うわ、きめぇと思った瞬間、意識がブラックアウトしていった………

 

 

「うわああああっ!!」

 目を覚ますと、見慣れた景色が広がっていた。

「………あれ」

 ベッド、机、床。

 自分の部屋だ。

「………ゆ、夢?」

 念のため、カレンダーを見てみる。

 日付は………ああ、今日は木曜日だ。デートは土曜日。

 つまり、今までのは、夢。

「………良かった、夢で」

 そして、俺は久しぶりに、嬉しさで泣いた

 

 

 無論、智代に「水族館」について正しい知識を教え込んだのは言うまでもない。

 

 朋也と智代のドキドキ夢水族館パニック!! 〜愛は春原をそこはかとなく救う〜 END

 

 


あとがき:

 ついカッとなってやった。

 後悔はしていない。少ししか。

 ということで深海ねこです、初めましてor久しぶり。

 クロイさんからメールで誘われた瞬間に、タイミング良くネタの神が自分の右脳に滞在中でしたので、
さして詰まることもなく書き上げることが出来ました。

 でも書き上げて気づいたけど、ノリが完全に拙作「裏CLANNAD」と同じでした。

 興味ある人は当サイトまで。

 そしてこんな事書いていてなんだけど、自分はCLANNADでは智代が一番好きです。信じて。

 

 

注釈:

※1:知っているだろうけど、智代の弟。

※2:このSSの作成時期は2010年10月。このとき、とある漁村での伝統的なイルカ猟を題材にしたドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」が物議を醸していた。

※3:シャレにならないぐらい動きづらい。万が一着衣で川や海に投げ出されたら、すぐ脱ぐべき。まあ脱ぐのもきついけど。

※4:それはそれでどうだろうか。

 

 

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