TOP  紹介  一次 二次 LOG Forum リンク 

会場に戻る

 

まえがき



天岩戸大作戦


「あの〜? 智代さん? そろそろ出てきては下さいませんでしょうか…。もうみんなお腹が空き過ぎて死にそうなのですが…」


10月14日、午後8時。今日は俺の嫁、智代の誕生日だ。だが今日の主役は今、押し入れの中に閉じ籠もっている。いわゆる“お籠もり状態”なわけだ。高校時代は俺の悪友であり女番長でもあった杏といい勝負をするんではなかろうかと思われていた智代ではあったが、今ではその反動からか、、随分と丸くなった。まあ丸くなったと言うか、甘えん坊になったと言うかそう言う感じなのだが…。弟の鷹文に言わせるところが、“これが姉さんの本当の姿なんだよ?” と言うことなのらしいのだが…。高校時代の頃を見ている俺としては信じられないほどの光景が毎日毎日繰り返されているわけで…。春原を呼んで今のこの光景を見たらなんて言うだろう。まああいつは実家のほうに帰ってしまっているので、この町にはいないことは分かっているのだが。

「姉さん、いい加減出てきなよ…。兄さんだって悪気があってやったわけじゃないんだからさ…」

「当たり前だ!! あんなことを悪気があってやってたら尚更悪いっ!! うううっ、ぐすっ、ぐすっ……」

鷹文がこう言って諭してくれるものの、嫁はここぞと言わんばかりになお一層ぐすぐす泣きながらこう言ってくる。鷹文の彼女の河南子はぐて〜っと伸びているし、異母妹のともは我慢できずにスナック菓子をぽりぽり食べている。しかし何でこんな事態なったのか…。それを話さなければならないだろう。そう、それは3時間前のこと…。いつもどおり仕事を終えて帰ってきた俺は、小腹が空いたのか冷蔵庫を開ける。何かないものかと探していると美味そうな焼き鳥を見つける。普段なら一言、“これ食ってもいいか?” などと言って了解が取れれば食うことにしているんだが、今日に限ってその了解を取らず勝手に食ってしまったわけだ。まあ他にも美味そうなものがいっぱいあるから一つくらいなくなっても構わんだろうと安易に思って食ってしまったのが運の尽き。智代はどうやら2人の時間のときのおやつとして取っておこうと思っていたらしく、それをいとも簡単に全部食ってしまった俺に怒って、今この状態なわけで…。昔みたく蹴りの一発でもお見舞いしてくれたほうがどんなに楽かと思う。お籠もり状態でぶつぶつと文句を言われるのはある意味呪詛のように聞こえて大変な心労だ。それだったら焼き鳥をまた焼けばと言うことになるのだが、俺が焼いたところで炭になるのがオチなわけだから(ついでを言うと鷹文も河南子も同じようなものだしな? ともに至っては料理のりょの字もやらせていないわけで…)、ここは嫁に一刻も早く出てきて欲しいのだが…。

出てくる気配は一向に無し。と言うか無理矢理開けようと思って手を押し入れにやると向こう側からがっちりガードがされていて開けられなかった。しかも向こう側はタンスの陰で開けられず…。八方塞がり状態で今こうしてみんなで押入れの前、座っているわけなのだが…。って誰だ! こんなタンスの配置にしたやつはっ!! と思ってよくよく考えてみると自分だった。

と、ともかくも智代に早く出てきてもらわんと相当にヤバくなってくるので何とか説得工作を試みてはいるのだが、って…。襖がちょっと開く。おっ! 出て来てくれるのか? と思って期待していると、俺の顔目掛けてくしゃくしゃの紙が投げられてくる。手に取って投げられたくしゃくしゃの紙を解いて見てみる。中には“朋也のイジワル” と言う文字とあかんべーと舌を出している絵文字が書かれていた。ふっと押入れのほうを見ると隙間からこっちを伺っているんだろうか少々開いている。この隙を見逃さないわけがない。指を襖の隙間に持っていき一気に力を込めて押し開けようと試みるわけだが、相手はあの百戦錬磨の智代だ。俺の浅知恵なんてお見通しとばかりに一端開けかけた襖を閉めてしまう。俺の指は当然襖と柱の板ばさみ状態になっていたため閉められて思いっきり痛くて、柄でもないがふぅ〜っ、ふぅ〜っと襖に閉められた指を吹いている始末。“いい加減にしろっ!!” とは言いたいが“朋也は私を愛していないんだ…。もう愛も冷めてしまったんだ…” などと言ってはお籠りから出てくるときには必ずと言っていいほどぐすぐす泣きながら上目遣いに睨んでくる智代には敵うわけもなく…。その手にはどこから手に入れたのかは知らないが離婚届が握られてるわけで…。と言うかそんなものを常備している我が嫁はちょっとおかしいのか? と思うわけだ。

しかし困ったぞ。これは本格的に篭城戦になってきた。いろいろと説得はしてみるが出て来る気配は全くなし、とはいえ外部から開けるとなると相当の犠牲を払わなければならない。この場合の犠牲と言うのは専ら俺なわけだが。そもそもいつからこんなお籠もりが始まったのか…。鷹文に聞くところが小学生の頃だったらしい。らしいなどと言う推量系の助動詞がつくのは、鷹文もよくは分からないそうだ。しかし腹はペコペコだ。河南子なんぞは“ああ、お菓子が、お菓子が舞ってる〜。美味しそう〜…” などと目がをくるくる回しながら何やら意味不明なことをぶつぶつ呟いているし、ともはスナック菓子を全部食べてしまって足りないからともう一袋取り出している最中だ。このままじゃとも以外飢え死になんて言うこともありえる。それだけは何としても避けなければならないわけだが、店屋物はもうやってるところもないしな。コンビにもここからじゃ往復20分少々掛かるわけで…。何としても智代に出てきてほしいわけだが、それは到底無理な話なわけだし…。飯さえ用意できていればなぁ〜…。

 

と考えて、んっ? と思う。飯だったらあるじゃないか!! それに幸村のじいさんに古文の授業で教えてもらった“古事記”と“日本書紀”にもこう言う情景と同じ感じな場面があったような…。あれ? 古文じゃなくて日本史だったか? まあこの際どっちでもいいわい。そう考えて鷹文に言うと、“天岩戸だね? うん。いい作戦だと思うよ” と言う。河南子は相変わらず意味不明なことを言っているが、ぺしぺし頬を軽く叩いて“飯の準備をするぞ?” と言うと正気に戻ったのかじゃんじゃんバリバリ動く。普段面倒くさがりで智代に任せっきりなのに、全く食い意地が張ってると言うか何と言うか。そんなこんなで準備が完了する。見るからに誕生日用なメニューだな? こりゃ…。そう思ってチラッと後ろを向くと押入れから顔を出してこっちを恨めしそうに見つめている嫁の姿が見えた。まあ当然だろう。主賓のいない誕生日会なんて聞いたことがないんだしな? でも、それはあくまで今日の主役を呼び出すための囮なわけだ。河南子にはとものスナック菓子を分けてやる。“頂きま〜す!!” とわざと大きな声を出して食う真似をする俺たち。これで智代が出てきてくれるのかどうか半信半疑なところも無きにしも非ずなわけだが 智代自身腹も減っていることだろうし、誕生日の自分のいない誕生日会なんて聞いたことがないわけだから、おそらくは出て来る。いや100%間違いなく出てくるだろう。そう思いながらまたチラッと後ろを見ると、何かしらぶつぶつ呟きながらのそのそ出て来る嫁を見つけた。でもみんなには知らん振りをしておくようにと紙に書いておく。うんと分かったように頷く面々。前にも何回かこんなことがあって余計に篭城を長引かせた経験からかと思った。もうしばらく黙って食べる振りをしていると、ほとんど聞こえるまでに声は近づいて来ていた。

「今日は私の誕生日なのだぞ? それなのに朋也は私抜きで誕生日会をするのか? みんなも何も言わないのか? どうせ、どうせ私は独りぼっちなのだな…。みんな朋也側につくんだな。ともまでお姉ちゃんの味方はしてくれないのか…。うううっ…、グスッ、グスッ…」

はぁ〜。鼻をすする音まで丸聞こえだ。もういい頃かな? そう思ってそ〜っと気づかれないように立ち上がるとそろそろと歩き、バンっと襖を開けた。そこには俺の愛する嫁がびっくりして動けないというような感じで、しかも涙やら鼻水やらで顔をくしゃくしゃにしながら立っている姿があった。まあいつも見ている光景だからそんなには驚かないわけだが、最初のうちはびっくりしたよなぁ〜っと思いながら逃げないようにすっと手を掴む俺がいた。

 



「まあさっきは悪かった。この通り謝る。ごめん…」

そう言って朋也は頭を下げた。誕生日会の食事のほうは私が出てくるまでみんなで食べる振りをして私が出てくるのを待っていたんだそうだ。私が出てくるまでにスナック菓子を食べ過ぎていたともはあまり食べられなかったみたいでちょっと涙目になってたか…。その代わりと言っては何だが河南子がすごく食べていた。余程お腹が空いていたんだろう。そう思う。イジワルな私の愛する旦那様。この間も、その前も、そして今日もイジワルをされる。そんな私の旦那様。でも…、最後はこうやって謝ってくれるからどんどん好きになってくる。

「ううん…。私のほうこそごめん。ちょっとつまみ食いしたくらいでムキになって……。でもあれは2人だけで食べたかったんだぞ?」

そう言って私はちょっと拗ねたような顔を見せる。あのおつまみは私が朋也と同棲するようになって初めて作ったものだったから思い出も一入にあったのにも関わらず、それを何も言わずに全部食べてしまう朋也に腹が立って、籠もってしまったわけだ。でも今までいっぱい食事を作ってきたわけだがら、いきなり初めて作ったものを思い出せというのが無理な話かもしれないな? そう思うとふっと笑みが零れる。と、唐突に朋也はこう言ってくる。それが私の心をほかほかにする。

「そうか、あれってお前が俺のために初めて作ってくれたものだったんだっけ…。今更ながら思い出した」

って。そう言うと、“まあこんなものですまないけど、許してくれるか?” そう言っておもむろにポケットから小さな箱を取り出して手渡してくれる。可愛い包装紙に包まれた小さな箱だ。包装紙をきれいに取って箱を開ける。中にはピアノの形をした可愛らしいオルゴールがあった。んっ? 横に紙が挟んである。取り出して月明かりのもと、読んでみる。それがなお一層私の心をぽかぽか温かくさせることになったことは言うまでもなかった。

 

 



お姉ちゃんのお誕生日次の日。いつも土曜日はのんびりしているお姉ちゃんが今日は嬉しそうににこにこ顔で朝ごはんを作っていました。ともが起きてくると、嬉しそうな顔をもっと嬉しそうにして、“お手紙読んだぞ〜。ありがとな? とも” そう言うとぎゅって抱きしめてくれました。そっか、朋也お兄ちゃんが渡してくれたんだね? そう思ってうんって頷くともがいたの。この間の日曜日に朋也お兄ちゃんたちと一緒にお姉ちゃんのお誕生日にってオルゴールを自分で作れる箱根って言う山の中にあるオルゴールがいっぱい置いてあるところに行って(あっ、もちろんお姉ちゃんには内緒でね?)作ったんだけど、昨日の夜、ともが寝ちゃってからお兄ちゃん渡したんだぁ〜。そう思うと嬉しそうに微笑んでいるお姉ちゃんのことがもっともっと嬉しそうになってくれたらいいなって思う今日だったんだよ〜。えへへっ…。

END

 

 


あとがき

 

 

 

 

 

会場に戻る

TOP  紹介  一次 二次 LOG Forum リンク