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わたしとわたし

 



街を一望できる丘に続く坂をのぼる
雨上がりなのだろう
少し湿った感じのその道は、きれいに舗装されていた
坂をのぼりきり、門をくぐる
通いなれているのか
目的の場所まで迷わずに歩いていく

「元気だったか」

途中で汲んできた水をつかって掃除していく

「わたしは元気でやっているぞ」

抱いていた花束を二つにわけて、古い花と取り替える

「鷹文達も相変わらずだ」

お線香の束に火をつける

「ともからも、この間電話があったんだ」
「ともも、もう5年生だ」
「ずいぶんと大きくなったんだぞ」

静かに瞼を閉じて、手のひらを合わせる
合わせられた左手には、婚姻の証がはめられている

「おまえがそっちにいってしまってから、もう3年になるんだな」
「そっちの様子はどうだ、寂しくはないか」
「わたしの方は大丈夫だ」
「寂しくはない」
「おまえはたくさんのものをわたしに残してくれたからな」
「だから寂しくはないんだ」
「でもな」

閉じていた瞼を開けて、ただ黒い石を見つめる

「わたしがあの時言った言葉を覚えているか」
「おまえのところに行く、全力で行くと」

まっすぐ前を向いていた顔が、何かから逃れるように逸らされる

「おまえのところに行きたい」

わずかに下げられた瞳からこぼれた涙が、頬を伝っていく

「あいたい」
「わたしはおまえにあいたい」
「あって抱きしめてもらいたい」
「ただそれだけでいい」
「もう一度でいい」
「あいたいんだ」

嗚咽をこらえるたびに、腰まで伸ばした髪が揺れる 

「だから、おまえのところに行きたい」

目元をぬぐい、また黒い石を見つめる

「取り乱してすまない」
「もう泣かないって決めたのにな」
「こんな事では、またおまえにしかられてしまうな」

今度こそ、完全に顔をあげ、少し微笑む

「もし、わたしが道を見失って」
「バカなことをしてしまいそうになったときは」
「そんなわたしをしかってほしい」
「でも、やさしくだぞ」
「でないと、わたしはまた泣いてしまうぞ」
「おまえはたまにいじわるだったからな」
「ふふ、そうだな」
「そんなところも含めて、おまえの事が大好きだったんだ」
「あぁ、おまえへの愛は1ミリたりとも減ってはいないぞ」
「なんと言っても、わたしたちの愛は永遠なのだからな」

「だから」

「な」

「わたしは前を向いていこうと思う」
「おまえが残してくれたたくさんのものと一緒に」

「おまえと共に」

最後に一筋、頬にあとを残した

「今日は、せっかくのおまえの誕生日なんだ、こんな湿っぽくてはいけないな」
「鷹文や河南子たちもきっと祝ってくれていると思う」
「もちろん、とももな」
「今度、また一緒に会いにくる」
「その時を楽しみにしていてくれ」

「では、そろそろわたしも行くな」

黒い石に背を向けかけて立ち止まる
もういちど振り返って、微笑んだ

「肝心なことを言い忘れていた」



「お誕生日おめでとう……朋也」







「……おめでとう……朋也」

自らつぶやいた言葉に、目覚めをうながされる
はっきりとしない頭で状況を確認する
高校生の頃からあまり変わり映えのしない自室
時計の針は午前3時を少し回ったところ
そして……
わたしの左手の薬指に指輪はない
「また、あの夢か……」
いつも見る夢の続きのようだ



朋也と出会い、恋人同士になり、いろいろあって別れることになった
別れてから、より一層朋也のことが好きになった。
ふたたびつきあうことになって、私たちは本当の意味での恋人になれた
そして、あの夏があった
無限ループのように繰り返される1週間を過ごす、3年間があった
私たちは恋人から夫婦になった
そして朋也はいなくなってしまって3年が過ぎた

 




ほぼ毎日のようにみる夢
時の流れを感じられるくらいに記憶に残っている夢
まるで朋也がわたしの旦那様だと錯覚してしまいそうになってしまう夢
愛おしくて、嬉しくて、悲しくて、苦しくて、切なくて、悔しくて、もどかしくて
そんなわたしの想いのすべてがつまった大切な夢。
でもただの夢


現実のわたしは朋也と結婚はおろか
自分の気持ちを伝えることすら出来ていない
こんな夢をみるぐらいに想いは育っているというのに

朋也は渚さんと結婚し
その忘れ形見の汐と暮らしている

ようやく二人が幸せに暮らせるはずだったのに

汐は今、渚さんと同じ病気で苦しんでいる
状態はあまりよくはない
でも汐は病気と闘っている
あんなに幼いのに
あんなに小さな体なのに
必死に病気と闘っている
生きようと懸命に闘っている

朋也も闘っている
仕事を辞め、外出することもほとんどなく
汐の為に全てを懸けて看病している
まるで自分の罪を償うかのように
まるで自分の命をわざと削るかのように

あの親子には笑っていてほしい
汐はあんなにもかわいいのだから
笑顔が一番に決まっている

わたしは彼らの笑顔をもうみることはできないのだろうか
あの夢のように
そしてわたしも笑うことが出来なくなってしまうのだろうか
あの夢のように
またわたしはおまえを失ってしまうのか
朋也

そんなことは絶対にさせない
わたしが絶対にさせない
かわいい汐の笑顔を取り戻して見せる
いつか必ず取り戻して見せる

「そうか……今日は朋也の誕生日だな」

汐のお見舞いに行こう
あまり早い時間だと迷惑かもしれないから
お昼前ぐらいがいい頃合いかな
まず買い物に行って、食材を選ぼう
汐に食べやすくて栄養のあるものを作ってあげよう
朋也には元気がでるもの……豚肉なんかがいいだろう
古河パンに寄って、秋生さんにケーキを作ってもらおう
朋也へのプレゼントはそうだなぁ……
早苗さんに特製レインボーパンを作ってもらおう
そうだ、それがいい
ふふ、われながらいいアイデアだ
時間があれば古河夫妻にも一緒にいってもらおう
汐もにぎやかな方が元気がでるかもしれないからな
汐もきっとその時だけは笑顔になってくれる

そして汐と一緒に言ってあげよう




「お誕生日おめでとう!朋也」

 

 

 

 

 

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