「え? お前も来れないのか?」
「悪い、本当に急な仕事が入った。三十日のお前の誕生日は出席出来ると思うが、明日は無理だ」
「は、はあ…」
「すまん、もう話してる時間も無い。おめでとうとだけ伝えてくれ。じゃあな」
電話の相手はそれだけ言うと、電話を無情にも切ってしまった。
「どうだった、あいつは?」
俺の愛妻、智代が聞いてくる。
「駄目だった…」
明日は智代の誕生日。この日を盛大に祝うのが岡崎家&光坂friendsのしきたりなんだが、今年は俺と智代を除く全員の参加者が忙しいとの事だ。
その忙しい理由とは:
春原「仕事場が予想以上に忙しいんだ。休みを取るなんて無理だよ」
杏「幼稚園教員の研修会があるのよ…」
ことみ「アメリカで論文の発表があるの」
藤林「あの…私はもう柊です…それに看護婦に休みはありません」
宮沢「これでも私、チェーン喫茶「米田」の経営者で…外出は無理な話です」
芳野さん「悪い。仕事がある」
公子「すみません、ふぅちゃんの面倒を見ていないといけません…」
その風子は…
「岡崎さんに付き合うほど風子は暇ではありません! 風子は近所でも「あの子は忙しい子だね」と評判です!」
その他にも…
古河「皆で家族旅行ですっ! だんご大家族です! えへへ」
鷹文「河南子とデート(とは名ばかりの荷物運び)」
よくもまあ、用事が一致したもんだ。
「今年は俺とお前だけで祝うみたいだな…ごめんな、智代」
智代は悲しげな顔をするが、すぐ元の表情に戻る。
「じゃあ明日は私が朋也を独り占め出来るんだな、うん!」
いや、既にその状態なんだが、特に夜とか(ry
「二人だけなら明日、行きたい場所があるんだ」
「お、おう。どこだ?」
夏でもないのに夏の町で祝う誕生日SSみたいな杏仁豆腐
……
何故こんな田舎の町に。
バス停で降りて、辺りを見回す。
(なにもねぇ…)
「こっちだぞ、朋也」
智代に案内され、商店街に着いた。
「こんなところにないがあるんだ?」
「私の古い友人だ」
一つの建物にノックする。看板は…
霧島…診療所?
「誰だ? わざわざノックするのは? 遠慮はいらんぞ?」
ぎぃ、と扉が開く。青髪の女性が現れた。白衣を着ているから、この人が診療所の医師だろう。
「久しぶりだな、聖さん!」
女医は智代を見て少し戸惑ったが、
「ええと、確か、坂上智代さんだったな」
「覚えていてくれたんだな…」
俺がボーっとしている間に智代と聖と呼ばれた医師の会話が成立していた。
「紹介しよう。これが私の夫、岡崎朋也だ」
「岡崎君か。私は霧島聖だ」
手を差し出される。
ちょ…ちょっと待て…
今作者はAirとのクロスオーバーを書いていて、そこでも智代は俺の嫁予定…聖さんとは高校の時に初対面の筈だから…この世界とその世界は…
「うがあああああああああああああああああああ!」
壊れた。
「どうしたんだ、朋也?」
「びっくりさせる奴だな」
いかん、冷静に…
「とにかくここではなんなので、話なら診察室でしよう」
茶を出され、診察室で落ち着く。
「しかしあの坂上さんが今は結婚して、性格も丸くなって…人は変わるものだな」
「そう言う聖さんはまだその手の話は無いのか?」
「ふふ、私は一人でもいいんだよ」
俺を差し置いて会話が進んでいく。よし、ここはプライドを放棄して発言だ。
「あのー、お二人はどう言う関係で?」
「あ、すまない…朋也は知らないんだな」
智代がすまなそうにする。智代のそんな顔もまた俺のハートをずきゅんだぜ。
「聖さんは私の師だ。私に格闘技や料理を教えてくれた」
…おい。
「確か坂上さん、いやこれからは智代さんと呼ぼう、が中学の頃だったな。私の家によく来ていた」
中学の頃。智代が不良といざこざを起こしていた時期だ。
「智代さんは私の弟子になりたい、と頼んだんだ。当時の私は既に医者になっていて、時間があまり無かったが、基本だけは教えたよ」
料理はともかく、格闘技に関してはこの人、あまり強く見えないんだが。
「だが中学三年のある時期から来なくなったな」
鷹文が公道に飛び出たあの日からか。
「で、今日はなんの用だ?」
「うん。今年の私の誕生日は私と朋也だけだからな。ちょっと遠出して朋也とあなたを一度会わせたいと思ったんだ」
「そ、そう言えば今日は智代さんの誕生日だったか…十月十四日、確かに…すまない」
頭を下げられる。
「いや、こちらからもずっと連絡していなかったからな、忘れてて普通だ」
それからは智代と聖さんの事を聞いた。智代は中学の頃、家ではなくここで誕生日を祝っていたらしい。智代と聖さんと、聖さんの妹の三人で。
鷹文の一件以来、智代は診療所に顔を出さなくなった。だが今年は俺達二人だけだったからあの頃の誕生日みたいに祝おう、と智代が思った。
「でも佳乃は就職してこの町を出て行った。前の三人では祝えないぞ」
「朋也がいるじゃないか」
「そうだな。では今日はもう診療を終えて、智代さんの誕生日を祝おう。食事の用意が出来るまで待ってくれ」
聖さんはそう言うと台所に姿を消した。俺と智代だけが診察室に残される。
「なあ」
「なんだ?」
俺は気になっていた事を聞く。
「聖さんはお前の師匠と呼べる程強いのか?」
「うん。あの人は私なんかよりずっと強い。聖さんは女の子らしくなりたい、とか考えていないからな。人前であろうとなんであろうと構わない」
だから怒らせるんじゃないぞ、と小さく笑う。
暫く待っていたらドーン!と騒音がした。
「な、なんだ!」
俺と智代は慌てふためく。だが聖さんは驚く素振りも見せずに
「安心しろ。この町ではそう珍しい事でもない」
危険な町だ…
聖さんは窓を開け、
「神尾さん! 何度も言うが、町中でバイクを乗り回すのは迷惑だ!」
と叫んだ。
すると赤毛の女性がばつの悪そうな顔をして診療所に入って来た。
「いや、こいつもあまり走らせてないさかい、たまには思いっきり乗り回さないと可哀想や」
「今月で三回目だからな、その言葉を聞くのは」
「そう固い事言わんと、今度から静かにぶつけるから今回はカンニンな」
それだけ言うと女性は出て行って、バイクを走らせた。
…
「な、なんだったんだ、あれは…」
「どうだ? この町にいても飽きんだろう?」
いつだって身の危険を感じるのは嫌だがな…
「さあ出来たぞ」
目の前にご馳走が並べられる。
「こ、これ全部あんたが作ったのかげふっ!」
叩かれる。
「年上をあんた呼ばわりするな」
「い、いや、どう見ても年下ごふっ」
蹴られる。
「朋也ぁ、私がいながら他の女性に…」
「いや、誤解…」
どうする、どうするよ俺!?
逃 食 自
亡 事 爆
…カードの切り方が肝心だ。
な、なんで「弁明」のカードが無いんだ! こ、こうなったら…
(朋也は現在ライフカードのCMを脳内で妄想しています。LOADING…)
だ、駄目だ。どのカードを選んでもYou are die!になってしまう。なんでここで春原並みの悪い引きなんだ。もしここで作者が引いたら…
ア三 形ガ ホ盾
ド体 勢イ プに
損融 逆ザ ロ
の合 点レ を
のス
…これだからデュエル馬鹿は。ついでに作者は現在六武構築中とか…
ってそんな事言ってる場合か、死ぬぞ俺!
「なんてな。冗談だよ、岡崎君」
「悪い朋也、私もつい悪乗りしてしまった。許せ」
くそ、冗談かよ…項垂れる。俺の扱いがひでえ…
食事をしながらの雑談。
「そもそも、私がお前より年下だったら開業したのが中学生以下の時になるぞ?」
「そ、それもそうだな…」
こんな町だから中学生の医者が開業しても珍しくないと思うのは敢えて口にしなかった。
「まったく、朋也はせっかちなんだから」
「ははは」
俺の扱いが悪くなっているのが痛い程わかる。
聖さんの料理は普通にうまかった。いや、智代の料理ほどではないけどな?
「それはおかしいんじゃないか? 聖さんは私の師だからな、私より料理は上手なはずだ」
「あれだ。弟子が師匠を超えたってやつ」
「ふふ、それはどうかな?」
「よし、今度来た暁には勝負しよう。審判は朋也だ」
俺が言うのもなんだが、それは絶対に不公平だと思う。いくら聖さんの料理がうまかったとしても智代に軍配があがるだろう。
食事も終わってする事がなくなる…と思いきや、聖さんが診察室からある物を取り出してきた。
「それ…花火か?」
「最後はやはりこれだろう」
…
「…あのなぁ、今は夏でもないんだし、打ち上げ花火なんかやったら周りに迷惑だろう」
「うん、私もそう思う」
「そうか…」
残念そうだ。
「でもな、線香花火なら問題ない」
…え。
「おい智代…」
「秋の日の誕生日。夫と一緒に線香花火を楽しむ。これはとてもロマンチックで女の子らしいじゃないか」
いや、普通の女の子は絶対にそんな事はしない。でもまあ俺もやりたくない訳でもない。
「じゃあやろうか…」
火を点けると思いの他綺麗だった。風流、とは言わないと思うが、これもこれでよかった。
「む、このペースだと足りないかもしれないな。もっと取ってこよう」
俺達を気遣ってくれたのか、聖さんは診療所の中に戻った。
「朋也」
智代が俺を呼ぶ。
「ん」
「その、ありがとう。今日はいつも程賑やかじゃなかったが、楽しい誕生日だった」
「いや、計画とか全部お前がしたんだけどな。ここでも聖さんの方が色々してくれたし」
「もちろん聖さんにも感謝したい。でも朋也がここまで付き合ってくれたからこそ楽しかった」
「智代…」
「なんたって朋也は最高の夫だからな」
照れる事言ってくれるじゃないか。
「そうだ智代、これ」
用意していた箱を取り出す。
「プレゼントだ、俺からな」
「…ここで開けていいか?」
「当然だ」
俺のプレゼントはトラピッチェ・エメラルドのネックレスだ。智代の誕生日石だ。かなり苦労したが、一週間近く探し回ったら見つける事が出来た。
「朋也…最近帰りが遅かったのはこれを探してくれたからか」
「ああ、なんたって最愛の妻へのプレゼントだからな」
花火が消える。その隙にさっと口を合わせた。
「誕生日おめでとうな、智代」
「ああ…ありがとう、朋也」
おまけ
その頃光坂では。
「智代ちゃん達、どこ行ったんだろうね…」
「お前が変な策を練るから…」
「陽平、あんた馬鹿じゃないの!?」
春原以下、光坂friendsはサプライズパーティ計画を失敗していた。