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まえがき


T

 

 

10月30日。今日は岡崎朋也の誕生日。


朋也は依然古河家に御厄介になっている身。


今年は古河一家にお祝いしてもらうことになっていた。


渚は持病の病が再発して現在療養中の身だ。

 



「おっす、渚」

「おはようございます。朋也くん」

「それと、お誕生日おめでとうございます」


「ありがとう」

「あの、これ誕生日プレゼントです」

「おっ、わざわざすまんな」「いえいえ」

「お母さんに協力してもらっちゃいました。わたしはこんな状態なので」

 

「ふわぁ、あっ、ごめんないさい」

「寝不足か?」

「昨夜はいろいろ考え事がありまして」

「考え事もいいがほどほどにな。渚の身体が心配だ」

「はい」

「何を考えていたんだ?」

「そっそれは朋也くん『だけ』には内緒です」

「あーそうかい」

(渚はこれで隠してるつもりなんだよな…)

(まぁ、大よその見当はついているけど)

「俺なんかのために無理しすぎるなよ」

「無理なんかしてませんよ?………え?」

「どうかしたのか?」

「いえ、なんでも」

(どうして朋也くんのこと考えてたことがバレてしまったのでしょうか?)ハテサテ?

流石の渚さんの天然っぷりなのであった。

 



―夕刻―

秋生はできあがったばかりのパンを渚の部屋へと運んでいた。

「入るぞ、渚」「どうぞ」

「ご注文の品だ」「ありがとうございます。はい、代金です」

「あいよっ」

「しっかし、わざわざ支払わなくても、食べたければタダで作ってやるっていうのに」

「ダメです!今日はお客様なんですから」

「はぁ、またか。渚も頑固だな」

娘がまた何か企んでいると知った秋生。

しかし、何も聞かずに渚のしたいようにさせてやる。これも親の愛情というやつだろうか。

「また何かあれば呼ぶんだぞー」

「あっ!それでは、朋也くんを呼んでください」

「ん?小僧をここにか?」

「はい、大事な用事がありまして」

「大事な用事ねぇ… わかった」

「はい、わざわざすみません」「いいってことよ」

(今日は朋也くんの誕生日ですから、いつもより積極的になってみます)グッ

何やら渚は意気込んでいるご様子。

 

 


「おーい、小僧。渚がお前に大事な用があるってよ。店番代わるぞー」

「渚が?」

「襲うなよ?」

「誰が!誰にだ!!」

朋也の誕生日だからといって、そこまで日常が変わるわけではなかった。

この日も店の手伝いをさせられている朋也。

まぁ、この後誕生祝いをしてくれるというだけでも、朋也にとってはありがたいかぎりである。


 


「入るぞ」

「用事ってなんだ?」

「あっはい。用ってほどでもないのですが…」「ん?」

「朋也くんと少しお話ししたくて」

「話しか?別に構わないが」

『とっ朋也くんはとっても幸せものです。こんな可愛い彼女と誕生日を一緒に過ごせるのですから!!』

「は?」

「かっ可愛いといっても少しだけですが///」

「いや、そこは否定しなくてもいいぞ。渚はすげぇ可愛いから」

「あっありがとうございます///」

自分を可愛いなどと、渚らしくない言動に戸惑いはした朋也。

しかし古河家に御厄介することになってからというもの、この手の不可解な事柄にはいささか馴れだした。

しばらく様子を見ながら付き合ってやることに。

 

 

 

「あっ!これお父さんが作ってくれたチョコレートパンです」

「中にカスタードクリームが入っていてとっても甘いんです」

「まぁ、そうだろうな」

「あの、食べてもいいですか?」

「え?ああ、好きにしてくれ」

「はい、いただきます」モグモグ

(え?なにがしたいんだ?)

「えーっと、うまいか?」

「緊張して味が分からないです」

「何で緊張するんだよ」

「あっ、まっ間違いました。お父さんの力作なのでとってもおいしいです」

「そりゃよかった」

「朋也くんも食べたいはずです」

「ん?またその流れなのか?」

「うぅん…」

「今度もまた『食べたい』て言えばいいのか?」

「食べたいですか!!」

(仕方ないな…)

「あぁ、すっげー食べたい!」

「そうですか!!でもあげないです」ひょいっ

「ぐおぉぉぉ」

(またこの茶番か?そうなるとオチは見えて…)

「大丈夫ですか?朋也くん」

「どういうことだよ?」

「えっと、一つしかないので」

「もういいよ」

「それは困ります。別の形で楽しんでいただきたいと思います」

「もう好きにしてくれ」

「ではこっちを向いてください」

「こうか?」「はい」

(はぁ… また俺はあの仕打ちを…)


 

 

「んっ」『ちゅっ』唇に柔らかい感触

(え?キス?)

「えっと、いかがでしたか///?」

「カスタードクリームの味がしたと思います」

「………」

「あの… 何か言っていただかないと…」

「わたし泣きそうになってしまいます///」

「ここか?ここか?」

「えっと… 何してるんですか?」

「芽衣ちゃんが何処かに隠れているんだろ?探してるのさ」

「芽衣ちゃんが来ているのですか?」

「いや、こっちが聞きたいくらいなんだが」

「??」コクリッ

「いや、そこで頭を傾げられてもな…」

「どうせ芽衣ちゃんの差し金か何かなんだろ?」

「え?」

「前にもこんなことあった時は芽衣ちゃんの仕業だっただろ?だから今回だって…」

「ちっ違います。芽衣ちゃんは何も関係ありません」アタフタ

「え゛?」

「今回はわたし一人で考えたことです!」

「渚一人で?」

「はい、ただこの前のを参考にはさせてもらいましたけど…」


「えーっと、何故こんなことを?」

「あっあの/// いつも朋也くんにばかりリードしてもらっているので」モジモジ

「わたしからも恋人らしいことをしなくちゃと思っていて///」

「今日は朋也くんの誕生日なので、わたしも少し勇気をだして///」モゴモゴ

「はい?」

「あの… 嫌でしたか?」

(なるほどね。そういうことか)

「嫌じゃないけど。少し回りくどくないか?」

「へ?」

「キスしたかったなら、そう言ってくれればよかったのに」

「あああの、これでも頑張って考えたんですっ!!」

「それで今日は寝不足になったわけか…」

「はい…」

(朋也くん、喜んでくれなかったのかな…)シュンッ

朋也の反応が良くなかったので、作戦は失敗に終わったと思った渚。落ち込んでしまったようだ。


「申し訳ないが、さっきのは不意打ちすぎて覚えていないんだ」「はい?」

「もう一度お願いできないか?」

「はあ………?」

「って、えええぇぇぇ!!」

「そんな、もう一度なんて恥ずかしくて///」

「ダメか?俺の誕生日なのにか?」

「うっ…」

珍しく渚が積極的になってくれていると感じ、味をしめた朋也は誕生日を口実に渚を誘い出した。

渚も誕生日と聞いては断ることもできず…

「覚えてないなら仕方ありません。もう一度します。今度はしっかり覚えててください///」

「ああ」

「んっ」

唇を合わすだけの軽いキス。まだこの二人にはこの距離で十分。

「どうでしたか?」

「うん、甘かった」

「そうですか、それはよかったです///」にぱっ

渚も照れながらも朋也が喜んでくれたようで満足しているようだ。


「えへへ、今度はおいしいです」

食べかけのパンを食べている渚。一仕事終えたことでパンの味も格別のようだ。

「そんなに緊張してたのか?」

「わたしからすることはあまりないので、まだ馴れません」テレッ

「そっか、なら渚が馴れるまで渚にリードしてもらおうかな?」

「ふえ!?」ペチャッ

「ああー!!カスタードが零れちゃいましたー」

「何やってんだ、ほらティッシュ」

「すみません」

「ふえー、服の間から中にまで入っちゃいました。ベトベトですぅ」ウルウル

『ぷちっぷちっ』

おもむろにパジャマのボタンを解きだす渚さん。

「おまっ!?なにやってんだ!!」

「え?」

見えないように手でガードしている朋也。ただ指の隙間からチラッと覗いていたのはご愛嬌。

「ひゃっ!?すっすみません、わたしったら朋也くんの前ではしたない///」

「いや、俺的には大歓迎なんだけどな///」「え///?」


「おーい!小僧そろそろ店番にもどって…ん?」

「は?」「へ?」

「「「………」」」

「テメーーーーー!!渚にナニやってたんだコラーーーー!!」

秋生の乱入。そしてこの状況を見た秋生は何かを勘違いしてしまったようだ。

「おっオッサン落ち着け。別に如何わしいことは何も…」

「いかがわしぃ!?テメー、渚に指一本触れてみろ。次には指一本残して細切れにしてやるからな」ギロリッ

「わかったわかった。何もしてないからな。安心しろ」

「何もしてないだと?テメーそれでも男か?男なら惚れた女を落としてみせろ!」

「アンタは娘を守っているのか差し出しているのかはっきりしろ」

「馬鹿野郎。そんな簡単に娘の純潔を渡せるかってんだ」

「俺に認めてもらえるよう、せいぜい努力することだな」

「はいはい。頑張りますよ」

「まぁ、頑張ったところで認めるつもりなんてないけどなぁ!!ハッハッハ」

「おい…」

「お父さんそのくらいにしてあげてください」

「今日はわたしの方から朋也くんを誘ったんですから」

「ああ?渚から?」

(ばっばか、ややこしくなることを)

「渚が男を誘うだとぉ!?テメー渚を誑かしやがったな」

「誤解だ!!」


しばらくしてほとぼりが冷めて。

「まぁ、この根性なしが渚を襲うなんてあるわけないよな」

「オッサンが勝手に誤解してややこしくしただけだけどな…」

「たく、渚も渚だぜ。そういうことは元気になってからやれってんだ」

「へ?何をですか?」(元気じゃないとキスしてはいけないのでしょうか?)

「あっ…」

「おーれは娘になにをいっているんだーーーーー」

「ああああーーーーー」

「どうしちゃったんでしょう?お父さん」

「気にするな。いつものことだろう」「はぁ?」

 

 


この後誕生日祝いの席でポロッと渚がキスのことを口にしたもんだから大変。

秋生がまた暴走していたのはここだけの話し。

 

 

 


あとがき

 

 

 

 

 

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