―――― こうして物語はひとまず幕を閉じる。
夢は覚め、宴は終わり、人々はいつもの生活に戻る。残されたのは、運命の二人。
彼らの前には、これからも幾つもの困難が立ちはだかるであろう。これからの道は険しく長い。
しかし、彼らならやり遂げる。なぜならば、彼らは一人ではないからだ。
たくさんの仲間たちがいる。
応援してくれる人たちがいる。
守りたいものがある。
そして、二人がいる。
それさえ忘れずにいれば、いつかきっと……
「おし、オールクリア」
「お疲れ、にぃちゃん」
俺と鷹文は、ゲームをコンプリートしてスタッフロールを迎えていた。感動的な話も、これで二十七回目のクリアともなるといい加減疲れてきた。
「バグは……なし、と」
「誤植も直したしな。これでオッケーだ」
一息ついていると、隣の間から剣呑な声が聞こえてきた。
「まったく、大の男二人が昼間っぱらからゲームばっかりなんて、ダメじゃないか」
「そうっすねー。まー、あたしは諦めてるし、ねえ」
「あんな狭い部屋に籠りっきりなんて、もしかしたら本当にそのケがあるんじゃないかって疑うぞ」
「そうっすねー。まー、あたしは諦めてるし、ねえ」
「何っ?!もう、て、手遅れなのか……知らなかった。夫と弟がそんな仲になっているなんて……これでは腐ってしまうではないかっ」
「そうっすねー。まー、あたしは諦めてるし、ねえ」
「諦めている場合かっ!このままだと夫を互いの夫に寝取られたダメ嫁の烙印は免れないぞっ」
「そうっすねー。まー、あたしは諦めてるし、ねえ」
「……ここまで諦観の境地に入っているとは……!!」
そこまで聞いて、俺はいたたまれなくなって隣の間へと突入した。
「はにぃっ!俺はお前のためにカムバックだっ!!」
「遅いぞだぁりんっ」
キッと睨まれた。おおこええ。でも、眦にうっすら浮かんだ涙がかわええ。
「あ、終わったんだ」
「ああ、全部終了。やれやれだぜ」
「じゃあ、ご飯にしよう」
「わーい、先輩大好きっ」
「いやっほーい、智代大好き」
『ただし鷹文、お前はダメだ』
「何なんだよ二人ともっ」
「鷹文にこれ以上シスコンになられたら、さすがにあたしにも世間体ってあるし」
「鷹文だろうと智代には指一本触れさせねえぜ」
「なあ鷹文、いい加減、その、な、悪いが私にはそういう趣味は……」
「そっちこそいい加減このネタから卒業しろよ頼みますからっ」
「終わったっつったらさあ」
食後のお茶をすすりながら河南子が言った。
「今年の誕生祭も、これで終わるんだね」
「そうだな。全日程、とうとう完了だ」
「今年もみんなに祝ってもらえて、本当にうれしかったな」
智代がしみじみと言った。
「去年より規模が大きかったしな。作家・イラストレーター併せて11人、全作品18点、これって2010年の時と同じレベルだな」
「あの時はアニメが終わってもまだ久しかったから、今回は結構うまくいったんじゃないかな。うしゃしゃ、先輩の魅力の勝利だねっ」
河南子が言うと、智代は顔を赤くして「そんなこと……とか言いながら黙り込んでしまった。うわ、かわええ。
「今年もベテラン・超新星の入り混じった豪華ゲストだったな。そういや今年も俺たちの子供たち(予定)が出てたな」
「あと、春原さんのもね」
すると、河南子が顔をしかめた。
「んー、あたしはどっちかっていうとヘタレが杏ちゃんとくっついてガキこしらえるって設定がありえないんですけど」
「それっ、僕らの破たんを祈ってませんかねえっ?!」
「陽平、ハウス」
「あ、はい」
「けど、13点のSSうち、4点までもが春原×杏だもんな。それにキネマクラナ座以外でも欣ちゃんのところではずっとその路線だし」
「中間報告のチャットでもその話で盛り上がっていたなっ!うん、親友たちの恋が成就するのはいいことだ」
うんうん、と智代が頷いた。
「あ、今データが出てきたね。えっと、参加者総数は11月4日夜十一時二十五分の時点で2,817名」
「へー、すごいじゃん。去年より大体1,000人増しって感じかな」
「推移としては初日に221人参加、15日から22日にかけて100から160人が毎日参加、23日にどかんと230人に参加者が増えて、あとは大体緩やかに落ちて昨日の時点では52人が参加、だけど今日は130人が参加してくれて幕、というわけだね。全体として毎日の参加者が去年よりも高く維持できたみたいだね」
パソコンでカタカタやりながら鷹文が解説した。すると河南子がぱん、と手を叩いた。
「はい、じゃあ反省会いってみよーかー」
「お前な、そんな気の重い事を……」
「でも、重要な事だ。何かをしたら、反省して改善する。それが大事なんだぞ、朋也」
「へい」
あちゃー、ともぴょんに叱られちった。
「まずはイベント告知が遅かったな。できれば夏の間にやっておきたかったが……」
「九月に入ってから有志に声をかけて、九月十九日にpixiv告知はきつかったか。そういや初日はSSが三点、イラストが二点だったもんな」
「でも、ペース配分は良かったんじゃない?おかげでダレなかったっぽいしさ」
「ふむ。実際の期間の長さはこれでよかったみたいだな」
「あのさ」
鷹文が手を挙げた。
「何だったら、もうねぇちゃんの誕生日の前の週末から始めた方が盛り上がるんじゃないかな?ねぇちゃんの誕生日がちょっとしたピークって感じで」
「そうだな。次についてはまた後で議論しよう。次」
すちゃ、と智代がメガネをかけた。いつの間にか議論は智代が采配していた。
「イラストが足りなかったんじゃない?もう少しイラストレーターに声をかけようよ。芦部さんと椋野さんにいつまでも甘えてるわけにもいかないでしょ」
「うぐ、痛いところを……」
「あと、中間報告が遅かったんじゃないかな。できれば後半じゃなくて中間にやりたかったよね」
「うぐぅ……」
俺が困っていると、智代が助け船を出した。
「まあ、それらは来年の誕生祭への問題提起としよう。朋也は他に何かあるか」
「ああ、それだけどな」
俺は咳払いをした。
「来年で、誕生祭は最後にしようと思うんだ」
一瞬の間の後、智代以外の二人が大声を上げた。
「ええええええええっ!どうしてさ」
「ええええええええっ!ウソでしょ」
「いや、今回はみんなのおかげで誕生祭も大成功したって言えると思うんだけどな」
「けど」
「正直、CLANNADのことに興味を持ってる人ってのが少なくなってきてるのは事実だよな」
「それは……そうかも」
悔しそうに河南子が言った。
「ましてや、キネマクラナ座はCLANNADと智代アフターがベースで、後者にはアニメ化の予定がない。河南子ととものことを知ってる奴って、少なくなってきてると思うんだよ」
「……ん」
「実は、私も少し考えていたんだ」
智代がぽつりと言った。
「今年はリトルバスターズのアニメ化が秋にあったおかげでKey作品が全体としてその恩恵を被ったところがあるが、来年は果たしてどうなんだろうな。イベントをやるには、主催者は参加者だけじゃなくて、投稿してくれた作家やイラストレーターの人たちのためにもそれを成功させる義務があるんだと思う。参加者のほとんどいないイベントに作家やイラストレーターを巻き込むよりは、そんなイベントをやらないほうがいいという意見はある」
そして少し寂しそうにふっと笑った。
「まあ、来年で誕生祭は第五回を迎えるからな。ちょうどいい区切りになるんじゃないか。少し寂しい気もするけどな」
「大丈夫だ。俺たちの誕生日がもう祝ってもらえなくなるわけじゃない。祝ってくれる人は絶対いるだろうし、もしかしたら別の誰かが誕生祭をやってくれるかもしれない。ただそれだけだろ」
「……うん」
「まあ、そういうわけだから、来年もがっつり盛り上げて、有終の美って奴を飾ってやろうぜ」
「……うん、そうだね」
鷹文が小さく、でもはっきりと頷いた。
「徐々にスケールダウンして消えてなくなるよりは、派手に暴れちゃおうじゃん」
「そういうことそういうこと」
俺が大げさに頷くと、智代がくすくすと笑った。
「それじゃ最後に」
こほん、と智代が咳をして立ちあがった。俺たちもそれに倣う。
「『CLANNADダブル誕生祭 エピソード2012』に投稿していただいた作家・イラストレーターの皆様」
「この三週間にもわたる祭りを盛り上げてくださった一般参加者の皆様」
「コメントまで残していただいた方々」
「キネマクラナ座を代表して、心より申し上げます」
『ありがとうございます。お疲れさまでした』