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『幼な妻と甘美な日々〜タイトル詐欺〜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冗談です。

 

『胃袋握られたら帰るしかないよね。なにそれ痛そう……朝の食卓と誕生日パーティー』

 

 

 

主演:岡崎朋也

共演:春原芽衣・春原陽平・藤林杏・岡崎直幸

 

 

 

「うぅん……」



 早朝。トントンと心地よく聞こえる台所からの音で目が覚めた。それに、コトコトと煮立つ鍋から立ち上る空腹に染み入る味噌の香りが鼻腔をくすぐる。

 枕元に転がるデジタル時計を手に取り見ると、AM5:30と起きるにはまだ少し早い。もぞもぞと布団の中でまどろみながらも台所の方を見ると…………そこには見慣れた彼女の姿があった。



「ふーん、ふふーん♪」



 ジャージにTシャツと色っぽい格好ではないが、その上に男のロマンであるエプロン☆を装備してくれている。

 彼女は機嫌良さそうに鼻歌を歌っていて、見ているこちらも気分が良くなるほどに楽しそうだ。



「楽しそうだな」

「あ、起しちゃいましたか?」



 初めて出会った頃より若干伸ばした髪、その髪を当時と同じ様に白いリボンでツインテールに結った彼女はそう言って微笑みを浮かべる。

 歳の差としては四歳差、今年二十四になる俺としてはつい数ヶ月前に二十歳になったばかりの若くて可愛い可愛い恋人が、こうして毎朝食事を作ってくれるというのだからありがたい話だ。

 そもそも、こうして寝起きにだれか……そう、心の許せる相手がそばにいてくれるというのはどれほどまでに幸せな事なのかというのは、彼女が俺の恋人になってからというものすぐに体感する事になったのだから。



「ん? ああ、別にいいぞ? 今日は休みもとってあるし、一日は有意義かつ有効に使わないと勿体無いしな」

「ふふっ、そう言ってくれると思ってました。あと少しで朝食も出来るんでお布団片付けちゃってください」

「わかった、今日の朝食も楽しみだな」

「あ、顔もちゃんと洗って来てくださいね」

「はいはい」



 四つも下だというのに、どこか年上のような世話焼き具合の彼女の名前は春原芽衣。長い付き合いである友人、春原陽平の妹でダメな兄の影響か実年齢以上に物凄くしっかりした娘だ。

 彼女は現在調理系の学校に通っており、来年で卒業。町が発展して駅の近くに調理師学校が出来たのが彼女が高校二年になった時で、三年の夏にはそこに入学がする事決まっていた。さらにはその学校で飲み込みがいいと気難しい講師に気に入られた挙句に六月から始まった就職活動も一番乗りで合格通知を貰ったらしい。

 そんな自慢の彼女とは違い、何の変哲のないしがない電気工の俺はとりあえず彼女に言われた通りに敷布団を片付け、ボサボサに寝癖のついた頭を直し顔を洗ってから居間に戻る。



「おっ、今日の朝は洋食か」

「ええ、最近お魚とかの和食ばかり続いてましたからね。そろそろトーストとスクランブルエッグとか恋しくなった頃かなと思いまして」

「ははっ、なんか芽衣ちゃんには心見透かされてそうだな。確かに、何でかしらないが顔洗ってる辺りから今日はパンの気分だし、丁度よかったよ」

「まあわたしが朋也さんの胃袋をちゃんと管理してるんで、いつ頃食べたくなるかなーっていうのはおおよその感覚ですけど把握してるんですよね」



 なんと気分自体、彼女に操作されているらしい。



「いや……でした?」

「全然、芽衣ちゃんがそうしたいなら俺は別にいいぞ? 彼女の手料理が食べられるんだからこっちはこっちでメリットしかない訳だしな」

「そうですか、よかったです」



 ホッとしたような、どこか安心した表情で笑う芽衣ちゃん。その表情を見て、こちらも思わず笑顔になる…………これは毎日のやり取りで、ごくありふれた日常な事だ。

 ………………俺は、この子と付き合いだして色々変わったと、昔馴染みの面々によく言われる。

 一人目は芽衣ちゃんの兄、そして本当に……ほんっっっっっっっっっとうに残念な事だが将来の俺のお義兄さんである春原陽平。

 そのミジンコとも言えるかの如く、邪悪かつ邪魔な存在からは…………



『岡崎は変わったよね、芽衣と付き合い始めてから…………なんか、一人だけ先に大人になっちゃったみたいな感じがしてさ。僕だけ置いていかれた気分だよ』



 なんて恨みがましく言われた。まあ、そんなあいつも昨年凶暴な伴侶、恋人が出来たと報告があった。つまりは俺と芽衣ちゃんのお義姉さん当たる人物になるのだが……正直、あいつを義姉と呼ぶには抵抗がある。

 そんな訳で二人目はその人物、藤林杏が言った事なんだが…………



『…………あんたねぇ、そんな汗水垂らして働くのはいいけどさ、芽衣ちゃんに心配かけてたらダメでしょ。っていうか、そんな頑張れるなら高校の時から頑張りなさいよね』



 前半は呆れ顔、後半は何故か半眼で睨まれた挙句に説教をかまされた。

 ちなみにこの後、『芽衣ちゃんはあたしの二人目の妹になるのよ? …………って、朋也もあたしの弟になるのよね。ふふっ』と、明らかに身の危険を感じる気配を感じたのは間違いではないと思う。

 そしてこれ以上はなしてもきりがないので三人目、三人目は芳野祐介。俺の職場の先輩で、俺を今の職場に入る為に親方に話を通してくれた恩人。



『お前が初めてここに来た時は、ただ自立したくてあがいている子供のようだった。だが今は違う、岡崎……お前は一人の男として彼女との生活を守る為にこうして働いている。そう、まさしく愛だ!』



 そう言っていた。確かに、初めは親父の近くから離れたくて、あの家が嫌で家を出て一人暮らしをして暮らす為に働き口を探し、働いていた。

 けど、芳野さんの言う通り…………今は、恋人の芽衣ちゃんと同棲を続ける為に、そして今後の為に色々お金を溜めている最中なのだから、きっと何かが変わったのだろう。

 俺の貯蓄は、芽衣ちゃんと付き合いを始めるまでただの親父とは慣れて暮らす為という後ろ向きなものだった。けれど今は、芽衣ちゃんとの将来を見据えた前を向いたものになっている。



「………………さん、…………やさん。……朋也さん!」

「うぉっ!? って、どうかしたのか芽衣ちゃん?」



 不意に名前を呼ばれ、ビクリと驚く。



「何度も呼んでいたんですけど…………」

「あー……悪い。ちょっと考え事しててさ」

「むぅ、朋也さん。かわいい彼女が目の前で呼びかけてるのに気付いてくれないって酷くないですか?」



 ぷくぅと、頬を膨らませてむくれる彼女は歳よりも幼く見える。正直な所、ツインテールもどこか幼げな印象を与えるものになってる気がするが、それは似合ってるのだから問題ないだろう。

まあ、あんまり怒らせるとつーんと拗ねて不機嫌な猫のようになるのも、また可愛いのだが…………将来のお義姉さんとタッグで襲撃されるのでデメリットがメリットを超える為にあまりオススメは出来ない。



「悪かったって。それで、どうしたんだ?」

「…………はぁ。今日、朋也さんの誕生日ですよ? 何か欲しいものはないんですか、って話ですよ」



 朝食を口に運んでいる俺に、ズイッと身を寄せて尋ねてくる芽衣ちゃん。

 彼女との距離は多分手の平一つ分ほどの近さ、その気になれば唇を奪う事のたやすい距離。



「うーん、欲しいもの……か。俺の欲しいものってもうすでに持ってるんだよな」

「朋也さん、何か最近買いましたっけ?」



 どうやら、俺の欲しかったものについて彼女はわかっていないらしい。俺はスッと手を彼女に伸ばし、無言で彼女の鼻先をツンと押した。

 それにキョトンとした表情を浮かべる芽衣ちゃん。そのまま一度身を戻すと座り直してうーん?と腕を組んで頭を傾げる。



「買う買わないじゃなくてだな……俺には芽衣ちゃんがいてくれる、それだけで幸せ一杯なんだぞ?」

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!? そ、そう言う事じゃなくてですね! えっと……その、わたしの他には何かないんですか?」

「………………あっ、それなら一つあるな」

「なんですか? はぁ……よかったです、今日はそれをプレゼントしますね」



 ころころと変わる表情、彼女のそんなところは初めて出会った時から変わりない。嬉しそうにしたかと思うと、次の瞬間には小悪魔的なニヤニヤとしたちょっとしたイタズラを思いついた表情になったりする。そんな彼女といれるだけで、俺は十分楽しいし、幸せだ。

 ただ一つ、贅沢を言うなら後一つだけ…………欲しいものがある。俺に欲しいものがあるとホッとした芽衣ちゃんを横目に、俺はパクパクと朝食を進めて最後の一口を飲み込むと



「へぇ……じゃあ、ありがたく貰おうかな」



 そう言いながら食べた食器を片付けると、俺はまだ食べている芽衣ちゃんの背後から抱きしめる。



「え、えぇぇぇええ!? と、とと朋也さん!? な、ななな、なな何してるんですか!?」

「いや、言った通りにありがたく貰おうかなと…………」

「いやいやいやいや、わたし以外のものですよね!?」

「ああ、だから芽衣ちゃんはもう俺のだし、それ以外で今欲しいのは“俺たちの子供”かなってな」



 ポカーンと、口をあけて呆けた顔になった芽衣ちゃんは、一気に顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

いまだにそのまま後ろから抱きしめている形にはなっているので、彼女の肩にあごを乗せてさらに耳元で囁く。



「嫌か?」

「…………………………い、やではないです。むしろ嬉しい……くらいです」



 よく見ると先ほどまでは顔だけ真っ赤だったのに、今では耳まで真っ赤になってしまっていた。

 耳年増だった彼女とはすでにそう言う行為も行っていないわけではない。流石に高校生の時にはそんな行為自体は深いものではなかったが、彼女が高校の卒業式を向かえた日……彼女と初めて正式に結ばれた。

 だからこそ、そんな彼女の現状を見て俺は笑いそうになってしまった。なんせ既にそういう経験を何度も重ねている割に、彼女は一向にこの手の話題を振ってくるのは平気らしいが、振られるのが大の苦手なのだから。

 そんな芽衣ちゃんが可愛くて、大切で、愛しくて、ギュッと少し力を込めて抱きしめ…………



「なら…………芽衣、結婚しよう」



 俺はそう囁いた。これは、芽衣ちゃんが成人する前から考えていた事だ。

 一昨年、俺は彼女の最後の夏休みの息抜きという名目で、彼女に連れられとある片田舎まで一泊二日で旅行に行った。その先で会ったのは、岡崎史乃……俺の祖母に当たるという人物だった。

 芽衣ちゃんは初めから彼女に俺を合わせる為にこの旅行を企画していたらしい。一応、親父の方にも話をしてこっそり来て貰えないかと聞いてはみたらしいが、困ったような笑顔で首を横に振られたらしい。

 俺は、俺達は岡崎史乃さん……お祖母さんから話を聞いた後、宿泊先に向かう事になったのだが…………その宿泊先はお祖母さんの家だという驚きの展開に…………。そこでさんざん曾孫の顔が早く見たいと言われ落ち着かないながらも、どこか嬉しそうにくつろいでいる自分がいた。

 そんな時にふと考えたのだ……芽衣ちゃんとの将来を…………。実の所、彼女のお陰で険悪で最悪であった親父と俺の関係は、現在は俺が高校生の頃から見ると随分とやわらかいものになっている。



「…………はい」



 もじもじと身をよじり、うつむいて真っ赤になりながらも…………芽衣ちゃんはそう答えてくれた。

 抱きしめていた腕を解き、芽衣ちゃんと向かい合うように位置をずらす。リンゴのように真っ赤に染まった顔、恥かしさからなのか潤んだ瞳を見て…………俺は彼女のあご先に手を添え、キスをする。

 顔を離すと、ぽーっとした芽衣ちゃんの顔が俺の視界全般を占める事になる。まだ物欲しそうに見つめてくる芽衣ちゃんに待ったをかけるように頭を撫でて……



「それじゃ、今日は親父と三人でケーキでも囲むとするか。改めて紹介し直さないといけないしな」

「むぅ……朋也さん、酷いです。こんなにしておいて、直幸さんの事を引き出してお預けなんて…………」

「ははは、まあ折角の誕生日朝っぱらからただれた生活っていうのもなんだし」



 流石の俺でも朝からただれた性活ってのはいけないと思うわけで。いや、決して無いと否定するわけではないが……こう、プロポーズした日にそれはどうかと思う。

 しかし、芽衣ちゃんはそっちの気になってしまったようで、続けるのを止めた為にちょっと不機嫌。その結果、封印したはずのあの言葉を投げかけられた。



「…………お兄ちゃんのいじわる」

「ぐぁっ!?」



 ぐっさりと胸の辺りを抉り取られるような精神的ダメージ、岡崎朋也は800のダメージを受けた。



「お兄ちゃんなんて嫌い」

「嫌いにならないでくれぇぇぇええ!! って、芽衣ちゃんそれ禁止って言ったろ…………」

「あははは、そうでしたね。でも、朋也さんがいじわるするから悪いんですよ?」

「はぁ、俺は好きな彼女……いや、嫁さんをからかう事も許されんのか…………」

「そうですよ、ちゃんとわたしの事は大事にしてくださいね」



 などと結局は笑って許してくれる芽衣ちゃん、どうやら気も紛れたようでホッと一安心。そしてこれが、今年の二十四歳の誕生日の朝の出来事であった。

 ちなみに昼は芽衣ちゃんと俺の結婚指輪を見に行ったり、夜に食べるケーキを古河パンに取りに行ったりした。



「朋也くん。お誕生日、おめでとう」

「朋也さん、お誕生日おめでとうございます」

「岡崎、誕生日おめでとう!」

「朋也、誕生日おめでとう」



 そして夜は、こうして実家で俺の誕生日を祝う事になる。

 面子は親父に芽衣ちゃん、わざわざ遠い所からやって来たミジンコと、この町の幼稚園で働いている杏に俺を含めた五人。



「あんた、わざわざやって来た友人をミジンコ扱いってひどくないっすかねぇっ!?」

「ああ、悪かったなミジンコ」

「陽平、あんた自分がミジンコ同レベルだって知らなかったの?」

「あんたらは揃いも揃って僕を貶めてなにが楽しいんすかねぇっ!?」



 物凄く賑やかだ。



「そういえば杏、勝平達はやっぱり無理そうか?」

「ええ、椋は今夜夜勤抜けられなかったみたいだし、勝平は勝平で今回の仕事は沖縄だって言ってたしね」

「そうか」

「なによ、あたしと陽平だけじゃ不満って言うんじゃないでしょうね」

「不満なんてねえよ。ただ……まあ、最近じゃこういう機会がないと会えないからな」



 杏の妹である藤林……いや、もう柊に姓が変わったんだったな。柊椋は現在病院勤務で忙しい毎日を送っている。そして、彼女の夫である柊勝平は持病を完治させ、とある出版社の専属カメラマンとしてあっちこっちを駆け巡る忙しい日々を送っていた。

 そんなんで夫婦生活は大丈夫なのか?なんて思われるかもしれないが実の所、勝平の方は職場の出版社のお偉いさんからの依頼でフリーから専属になり、かつ勝平の体調を気遣う心意気も見せているので休みは普通に貰えているらしいので、上手い具合に夫婦生活が遅れてるらしい。



「ああ、そうそう。陽平ね、来月中旬辺りからこっちに転勤になるんだって」

「ちょ、杏! それ僕から岡崎に言いたかったのにさ…………」

「あははは、いいじゃない別に減るもんでもないし」

「え、そうなのか?」



 料理は杏と芽衣ちゃんが腕によりをかけて調理したのでちょっとしたご馳走になっている。それをつつきながら、グイッと一杯グラスに注がれたお酒を飲み干した杏がふと思い出した事を告げた。

 それによって春原が何かショックを受けているがどうでもいい事なのでそちらは放置。しかし、事実確認はしないといけないので春原に本当かどうか確認を取る為に尋ねる。



「はぁ……そうだよ。有紀寧ちゃんのお店ある場所の近くで働く事になるからさ、今日はそれの上司との顔合わせでこっちに来てたんだよ」

「へぇ…………お前も随分と普通に社会人やってるんだな」

「岡崎にだけは言われたくないよ」

「だな……」



 酔った杏はもうこの話題は言っただけで満足したのか、芽衣ちゃんを愛でる方に興味が出て会話には加わらない。

 二人で話し、ひっそりと笑いあう。今思えば、高校時代には想像もした事がないほど……随分と遠い所に来たような気がする。

 周囲を見回すと、騒がしくも賑やかにやり取りする俺たちを眺めて、それで満足という穏やかな微笑みを浮かべた親父。酔った杏に抱きつかれて苦笑いを浮かべながらも楽しそうにしている芽衣ちゃん。

 酔って芽衣ちゃんに抱きつきながら更にグイグイと酒を飲んで陽気になる杏に、杏と芽衣ちゃんが作った料理を美味そうに食べつつこの場を楽しんでいる春原。そのだれもが、口には出さないが俺の大切な人達だ。

 そして、そんな人たちがこうしてここに集まれるようにしてくれたのは、紛れもなく芽衣ちゃんである。



「ああ、そうだ。誕生日ついでに俺からみんなに知らせないといけない事があったな」



 俺の言ったその言葉に、首を傾げる二人。そして、何を言うのかに気づいて頬を染めるのが一人。なんとなく理解しているのか微笑ましげに眺めているのが一人。



「今日、俺から芽衣ちゃんにプロポーズをして受け入れて貰った。向こうの両親に挨拶をし終えたら、俺たち結婚するから」



 ポカーンと口を開ける事になった未来の俺の義姉と義兄の顔は多分、いや、きっとこの先ずっと笑いの種になりそうだった。

 そんな固まる二人を置いて、親父が芽衣ちゃんの方に向き直る。



「おめでとう、朋也くん、芽衣さん。芽衣さん、朋也くんのこと、よろしくお願いします」



 親父はそう言って、芽衣ちゃんに頭を下げた。

 芽衣ちゃんはパタパタと慌てたように手を振ったりしていたが



「こ、こちらこそ、なにか不手際があるかもしれませんが、よ、よろしくお願いします。お義父さん」



 言葉に詰まりながらもそう返していた。



「朋也くん、芽衣さんの事大切にするんだよ」

「そんなのは当たり前だろ…………」

「そうだったね…………」

「なあ…………親父」

「なんだい?」

「結婚、親父には反対されるなんて思ってなかったけどさ。ありがとな……その、俺達のこと認めてくれて」



 俺も俺なりに、ぶっきら棒ながらも親父に礼を告げると、親父はどこか……いや、かなり嬉しそうに微笑んだ。

 どこかそれで気恥ずかしくなった俺はそっぽを向くが、どうやら手遅れだったらしく、杏や春原に肩に腕を回されからかわれる羽目になってしまった。

 それから、夜遅くまで飲んで食べて大騒ぎした俺らは、後片付けをして岡崎家を出た。おかしな話、杏に肩を貸して春原は先に帰ってしまったので後片付けは俺と芽衣ちゃん、親父の三人でしたのだった。

 芽衣ちゃんは片付けの途中で寝てしまったので、現在俺の背中でスースーと気持ち良さそうに寝息を立てている。そんな状態で玄関先に立ち、空を見上げると真っ暗な空に輝く星々が見て取れる。

 そんな折に、後ろから声をかけられた。どうやら親父が見送りに玄関先まで出てきてくれたらしい。



「おやすみ朋也くん、芽衣さんの事しっかり頼んだよ」

「ああ、わかってる。親父も、何もかけないで寝るのだけはやめろよな、そろそろいい歳なんだから身体壊すぞ」

「ははっ、まさか朋也くんに心配される日が来るなんて…………これはやっぱりお義父さん、って言われる歳になったんだって実感するよ」

「………………心配は、高校の時もしてたさ。疎く思ってたけど、少しばかりは」

「…………そうか。それじゃ、気をつけて」

「ああ……またな、親父。おやすみ」



 そう言って、俺は背を向け歩き出した。

 すでに十月は終わり、暦は十一月に移ったであろう現在…………人通りも無い住宅街の道を、愛する人を負ぶって我が家に向かっている。

 時折、背中でもぞもぞと動いて寝言を呟く芽衣ちゃん。彼女の重みが少し心地よい。



「…………幸せってこういう事を言うのかもな」



 そう呟いて、俺は芽衣ちゃんを負ぶり直した。ふわりと、綺麗な光が真っ黒でキラキラと宝石を散りばめたような夜空に立ち上っていった気がしたが、俺の目には見えなかった。



 こうして、俺の二十四の誕生日は幕を閉じ、明日からまた幸せな日々は紡がれていく。

 それは、長い長い坂を上るかのような、大変な事も、楽しい事も二人で手を繋いで歩くようなそんな日々…………



Fin.



【あとがき】



 はじめましての人ははじめまして、どうも陣海(じんかい)と申します。決して陳海じゃないのであしからず。(結構間違える人いるのよ、これが……

 初めてCLANNADのSSを書くきっかけを頂いたのがクロイさんのこのイベントでした。自分は今回で三回目の参戦になりますが、未だ二作品投稿の野望は叶わず…………時間が欲しい限りです。

 今回は岡崎×芽衣の物語を書かせて頂きました。トモトモーズも捨て難かったのですが、自分が書いても『愛が足りない!』の一言で片が付く出来になりそうでしたので初心に戻りました。

 普段はPixivにて「とある魔術の禁書目録」「とある科学の超電磁砲」の二次創作に励んでおります。最近は「織田信奈の野望」も不定期連載中。ご興味があったらそちらもどうぞ。



 最後に、今年も祭りを開催して頂いたクロイさんには感謝を、ありがとうございます。ありがとうございました。そして、ありがとうございました。

 来年も無事開催されるよう、参加出来るように草葉の陰から願っております。|ω`*) じーっ



 ではでは、ここらで一服する為に全裸でお暇させて頂きます故にー(*゚▽゚)ノシ

 

 

 

 

 

 

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