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まえがき


T



私立光坂高等学校の注目度ナンバーワンといってもいい、カップルであった岡崎朋也と坂上智代。

坂上智代。容姿端麗、文武両道、生徒会長という役職。非の打ち所がないとはこのことだろう。
ある夢を抱えていた智代は生徒会長へと立候補し、見事当選。
生徒会長という役職を駆使して、自らの夢の実現を成し遂げようと努力していくこととなる。
唯一の非があるとすれば、『岡崎朋也』という男を彼氏に選んでしまったことかもしれない。
岡崎朋也は高校でも有名な不良として名高い。(実はいいやつなのだが、周りは知らない)
そんな男と一緒にいれば智代自身にも、悪い噂などなど広まってしまうのも仕方がないことだろう。
案の定、生徒会長となってから、朋也との関わりで仕事に支障がでてきてしまうこととなる。
智代自身は朋也のことをよく理解しているので、噂されているほど悪いヤツではないことは重々承知。
朋也と付き合っていくことを、なんら悪いとも思っていなかった。
しかし、朋也の方は自分がいることで智代に迷惑がかかっていると感じて、別れることを決意したのだった。

お互い好きで付き合っていた。しかし彼女の夢の実現のために別れることになった。
別れ話を切り出した時の智代の顔が忘れられない。
朋也は身が裂ける想いで智代を拒絶した。
そんなやりとりがあったのが夏の出来事。  ――――


空は灰色の雲で覆われ、その雲の合間から淡い光が立ち込める。
そしてその雲から落ちる白いかたまりが、地面を白いキャンパスへと変えていた。
季節はもう冬。
あの夏に別れた二人はお互い干渉しあうことなく、それぞれの道を歩んでいる。
智代の活躍は誰もが知るものとなっていた。
夢の実現のためどんどん先へと進んでいく、そのスピードは落ちる気配など微塵も感じさせない。
一方朋也は、もとより不良行為をしていた身。
智代と付き合うこととなってからは、彼女に態度を改めさせられていたのだが…
彼女と別れてからも、誰に言われるわけでもなく自ら進んで最低限やれることは行っていた。
朋也なりのケジメだったのかもしれない。


岡崎朋也と坂上智代の誕生日は同じ10月。
別れていなければ、彼氏彼女で楽しい時間を過ごせていたはずだった。
「はぁ、寒いな」
智代は生徒会の仕事を終えて学校をあとにするところだった。
「ゆき… もう冬なんだよな」
智代は空を見上げた。


この真っ白な雪の様に、私の心も真っ白になってくれたのなら。
もう何事にも縛られることはない。そしたらもう一度、朋也を好きになって。
ずっと一緒にいられるのかもしれない。
朋也。私はまだお前のことが好きだ。お前のこと忘れることができない。
ともや… ともや…

「坂上会長どうしましたか?」
呆然と立ち尽くす智代に生徒が声をかけてきた。
「っ!?」
「なんでもない。少し雪を眺めていてな」ゴシゴシ
流れそうになっていた涙を拭い、何事もなかったかのように装う。
声をかけてきた生徒は智代の様子に気がつくこともなく、そのまま立ち去っていった。
寒さで頬や鼻が赤くなって、目の充血には気がつかなかったのかもしれない。
「私はこんなところで、涙など…」

自分はこんなにも涙もろかったのだろうか?
夢のために、あれからずっと全力で駆け抜けてきた。
この涙は後悔の涙?彼とずっといたかったのだろうか?
いいや、後悔をしてしまっては、あの時別れてまで夢を追った自分が台無しになる。
それに、彼だって…
朋也の気持ちを分かっていた。だからこそあの時、別れるという選択をするしかなかったのだ。
お互い辛かった…

自宅に戻った智代は、綺麗に包装された包みを手に取った。
「誕生日。一緒にいたかったな」
心からの願い。しかし、それは実現できなかった。
「せめて、プレゼントぐらいは渡したかったのだが」(私の意気地なし…)
手の中にある包み、それは朋也への誕生日プレゼント。中にはマフラーが。
用意したのはいいが、渡せなかったようだ。









U



―坂上智代の誕生日―
学校の廊下を連れだって歩く朋也と春原。その視線の先には智代の姿が。
特に声をかけるわけでもなく、そのまま通り過ぎようとしていると
「坂上さん今日誕生日だよね?」
「ああ」
「プレゼント用意してきたんだ。あとで渡すね」
「わざわざすまんな」
「お友達だもん」
「なら私も誕生日にお返しをしないといけないな」
友人と智代が誕生日について会話をしていた。その側を横切る男二人。
一瞬智代の視線が朋也をとらえたのだが、すぐに友との会話に戻ったようだ。

その場をそそくさと退場する朋也と春原。当然二人の耳にも会話の内容が入っていた。
「へぇ、会長さんは今日が誕生日なのねー」
「そうみたいだな」
「岡崎は知ってたの?今日が彼女の誕生日だって」
「どうだったかな」
「ふーん」チラリ
春原が朋也の顔を覗きこんできた。その顔は何か言いたいことがありそうな。
「何がいいたい?」
「べっつにー」
どうせ答えてはくれないだろうと踏んだ春原は、そのままはぐらかすことにしたようだ。
朋也にも春原が何を言いたかったのかは見当がついていた。
大方、誕生日プレゼントでも用意していたのか?ということだろう。
いまとなっては元彼女だから、それに彼女とはもう関わらないことにしている。
朋也はプレゼントなど用意してるはずもない… のだが実は用意していた。
彼女にというわけではなく、友達としてなら贈っても…と考えて用意していたのだが
(友達すらおこがましいか)
それに朋也は怖かったのだ、智代から拒絶されてしまうんじゃないかと。


放課後
結局そのプレゼントすら渡せずに帰路につく朋也。
(あいつも、大切にしてくれる友人や家族から貰ったプレゼントの方が喜ぶだろう)
(俺なんかから貰ったところで、ただ迷惑になるだけだよな…)
家に帰ると机の上にプレゼントを置いた、中身は…マフラーが眠っている。
捨ててしまおうかと考えた。しかし、捨てるに捨てれずそのまま眠りつづけることに。
(せめてこの想いだけでも届いてくれたのなら…)

 

                    ―この想いが届きますように―









V



―岡崎朋也の誕生日―
智代へのプレゼントを渡しそびれた朋也。今度は自分の誕生日を迎えることに。
自分は用意していたが、智代が自分へのプレゼントを用意しているなんてかぎらない。
それどころか、そんな考えすら持ってはいなかった。
智代の目にはもう、自分なんて写ってはいないと思っていたからだ。

放課後。下駄箱で靴を履きかえている朋也と春原。
「さーて、コンビニでケーキでも買って一人で寂しく祝うか」
「えー、それなら僕の家でお祝いしようよ。ケーキは勿論岡崎もちでさっ」
「なんで春原の分まで俺が払わないといけないんだ」
「バースデーソングを歌ってあげるからさ?」
「お前の気持ち悪いボイスは御免こうむる」
「赤ん坊も気持ちわるすぎて、腹に引っこんじまって産まれてこなくなっちまうだろうさ」
「まじでー、それなら早期に陣痛が来た人からは引っ張りだこかもね〜」
「やったな春原。これで就職先が見つかったぞ」
「わーい!僕の将来も安泰だー…」
「って、そんなわけありますかー!!そんな職業あったら苦労しないよ」
「そいつは残念だったな」


そんなやりとりを影ながら見ていた生徒が一人。坂上智代。
彼女の手には綺麗な包装をされた包みが握られていた。
勿論それは、朋也へのプレゼントだった。
智代はこの日、朋也へとプレゼントを渡そうとしては、諦めて引き返すという行動を何度も繰り返していた。
そしてとうとう放課後まできてしまったわけだ。
今も、最後の一歩を踏み出せずにいた。
プレゼントを渡せない理由。それは朋也と同じ理由だった。
またあの時みたいに拒絶されたらと思うと… しかしせっかく用意したプレゼントできれば渡したいもの。

「何処のケーキにしよっか?」
「奢らないぞ?」「ケチだなー岡崎」
「あっ…」(行ってしまった…)
結局、智代は朋也の後を追うことはせず、自宅へ帰ることとなる。


智代は自宅へ戻ると自室へとすぐに籠った。
「渡せなかったな…」
「友達のよしみだって、軽く渡してしまえばよかったのに」
「そのぐらいだったら… 許されると思ったのに…」
建て前は友達。しかし智代の本音は、好きな人への一途な想い。
それ故、渡せなかったのかもしれない。
朋也への想いが溢れてきた。涙が出そうになる。それを必死に耐える智代であったが…
「うぅ…うう゛うううう」
口に手を押さえて、必死に声を押し殺した。家族に聞かれないために。
しかし、涙は止めどなく流れていた。
(ともや…ともや…『会いたい』『側にいたい』『温もりを感じたい』『好きと言って欲しい』)
なるべく泣かないようにしていた。気持ちが揺らいでしまうといけないから。
しかし、この日は止めることができなかった。
涙が止められない以上せめて、思いっきり泣いて、気持ちを整理するしかなかった。

                     ―届かなかったこの想い―









W



―翌年―
紆余曲折、また二人が付き合いだしてから。
今日は初めて二人で一緒に迎える智代の誕生日。
朋也は社会人になってから努力を重ねて、この頃までには一人暮らしをするまでになっていた。
そこで、朋也の家で二人一緒水入らずで誕生日を祝うことに。

「しかし、よかったのか?私の誕生日に朋也の誕生日を祝ってしまっても」
「いいんだ。その方が安上がりになるからな」
この日まとめて二人の誕生祝いをしようと朋也が切り出していたのだ。
「ケチクサイぞ朋也。せっかくのお祝い事なのだから二回ともやりたかったぞ」
「俺は智代と一緒の日に祝いたかったのに… 反対されるなんて」がっくし
「そんなこと言うから、断るに断れなかったんだ…」むすっ
「最近の朋也は節約志向すぎてつまらない」
「社会人、一人暮らしだとお金はいくらあっても足りないんです」
「それは分かっているが…」
なかなか納得してくれない智代。せっかくの誕生日なのにこんな気分のまま過ごすのはいかに?
朋也は社会人になってから、ある理由から節制して貯金を貯めることにしていた。
その理由を智代には秘密にしておくことに。
しかしここまで秘密にしていた理由を、少々早めではあるが智代に話すことにした。

「はぁ…」(しかたねぇな)
「俺が貯金をしていることは知っているよな?」
「ああ、前に聞いたな」
「貯金をしてるのは、あるでかい買い物をしようとしているからだ」
「また引っ越しでもするつもりなのか?」
「おしい、ただ正解じゃないな」(いずれは引っ越しも考えてはいるがな)
「??」
「もったいぶらずに教えてくれ」
「はいはい。実はな将来を買おうと思う」
「しょうらい?」
「ああ、『坂上智代』の将来を買おうと思う」
「えっ…わたしの…」(それって…)
「智代、愛してる。卒業したら結婚しよう。俺のそばにずっといてくれ」
「ともや…冗談じゃないよな」ウルウル
「こんなこと冗談で言えるかよ」
「だって、朋也は冗談で別れようっていうから」
「本気だよ。お前と結婚するために必要な指輪やらなんやらの為に金を貯めてるんだよ」
「別に私は朋也と結婚できるなら、高い指輪なんていらない」
「そう言うなって、俺がお前に贈りたいから頑張っているんだ」
「うん」
「智代?」「なんだ?」
「まだお前から返事を聞いてないぞ?」
「え?あっ…」
「私も朋也のことを愛してる。結婚したいです///」テヘッ


「しかし、卒業までに朋也の気が変わってしまっては困るな」
「あ?そんな心配いらねーよ」
「いや、何が起こるか分からない。そうなると既成事実でも作ってしまうのが得策か」フムフム
「朋也!私を妊娠させろ。子供をつくるぞ」
「ばっ!?子作りだぁ?」
「そうだ、そうすれば朋也は結婚するしかあるまい」
「なるほど。確かにその通りだな。そうなると布団を敷いて今からでも…」よっこいせ
「って、そんなわけあるかーーー!!」ガバッ
「おー、見事なまでのノリツッコミだな」
「感心してんじゃねー!そんなことよりお前は、まだ学生なんだぞ。妊娠がバレたら退学だ」
「冗談だ。本気にするな」
「あたりまえだ。冗談じゃなかったらやばいだろ」ゼェゼェ
「冗談はさておき、妊娠させるつもりはあるんだな?」
「あ?」
「「………」」
「えーと… アハハハハ」
「笑ってごまかすな」
『ギクッ』
「本気なんだな?私との子供が欲しいんだよな?」
「まぁ… 欲しいっちゃほしいですけどぉ」(汗
「はっきり言ってくれ。私は、朋也との子供が欲しい…」
「ともよ…」
「ああ、俺も智代に俺の子を産んで欲しい」
「ともや!!」
「ただ、それはもう少し先の話しな」ナデナデ
「うん」にぱっ









X



プレゼント交換になった二人。まずは朋也から
「智代。俺からのプレゼントだ」
「二つか?節約しているのに悪いな…」
「ああ、片方のはな… 去年渡せなかったやつなんだ」
「えっ…」
「ほら、去年は俺達、別れていた時に誕生日を迎えただろ?」
「ああ」
「あの時用意はしていたんだが、智代に断られるんじゃないかとかいろいろ考えちまって… 渡せなかったんだ」
「一年越しになったが、よかったらそれも貰ってくれ」
「ありがとう、朋也。そうか、お前も」
「おれ『も』?」
「ふふふ、実は私も同じことをな」コトッコトッ
朋也の前に二つのプレゼントが並んだ。
「え?まさか、これってお前…」
「去年渡しそびれたプレゼントが一つだ」
「なんだよ、お前も用意していたのかよ」
「おそらく渡しそびれた理由も同じなんだろうな…」
「好き合ってるもの同士、気持ちも分かり合えていたはずだったのに、寂しい時間を過ごしていたんだな…」
「まったくだ…」

「いかんいかん、せっかくの誕生日がしんみりしてきた。プレゼントあけていいか?」
「かまわないぞ、私もあけるな」「おう」
二人揃って昔の方のプレゼントをあける。すると…
「「マフラーだ」」
「「………」」ポカーン
呆気にとられる二人。
お互いが贈るものだったものがお揃いだったことが判明。
「ぷっあはははは」「くっあはははは」
両方から笑いが込み上げてきた。
「プレゼントまで同じだったのかよ」
「私達は似た者同士だったんだな」

しんみりな空気はどこへやら、岡崎家に笑いが木霊する。
二人は哀しかった、寂しかった、苦しかった日々を乗り越えて、幸せな日々を取り戻した。
あの時過ごせなかった時間を埋めるかのように、これからは二人一緒に歩んでいける幸せを噛みしめて。

                     ―君の想い届きました―

 

 


あとがき

 

 

 

 

 

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