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夕方過ぎ、そろそろ朋也が仕事から帰ってくるかという頃合い。
渚は夕飯の準備、汐は絵を書いて時を過ごしていた。
渚が汐の様子を見に来た。
「しおちゃん上手ですね」
「ようちえんでれんしゅうした」
「これが朋也くんでしょうか?」
「ううん、こっちがパパ」
「こっちが?うふふ、可愛らしいですね」
「うん」にぱっ
しばらくして朋也が帰ってきた。
「ただいま〜」ガチャリ
「わっ!?」
「しおちゃん、朋也くんが帰ってきちゃいました。早く片づけて」
「うん」
朋也が帰ってきたことを確認した二人は、いそいそと後片付けをしだした。
(どうしたんんだ?何やらドタバタしているな)
「ただいま」
「朋也くんおかえりなさいです!!」
渚は朋也が家の中にすぐ入らないように、入口に立って塞いでいた。
「おお… どうしたんだ、そんなに焦って?」
「べっべつに焦ってなんかいませんよ」
「その割には目が泳いでいるような…」
『ギクッ』
「そんなこと今はどうでもいいじゃないですか」←必死です
「気になるんだけど…」
「気にしないでください!」
「まあ、いいや」
「それより汐がおかえりって言ってくれないんだけど。反抗期にでもなったか?」
「しおちゃんは… 今、お片付けに急がしくて」
「遊んでいたのか?」
「はい、遊んでいたんです!」
「そっか」
「ふぅ…」
朋也の意識がそれたようで安心した渚。しかし
「ところで、俺はいつまで玄関先で突っ立ってなければいけないんだ?そろそろ中に入りたいんだが」
「えっと…」
後ろを確認する渚。まだ汐は片づけの最中みたいだ。
「そうだ、朋也くん」「ん?」
「これからご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも… わたしにしますか!!」
「え?」
(一度は言われてみたい台詞。しかし渚が… 杏か芽衣ちゃんあたりに余計なことを言われたのだろうか?)
「渚にしたいのは山々だが、飯にさせてくれ」
朋也は渚の隣をすり抜けようとする。だが渚もそうはさせんと朋也を制止した。
「待ってください!よく考えてください」
「どうしたんだ?今日の渚は変だぞ?」
朋也の問いには気にもとめず、話を推し進めようとする渚。
「この際、わたしを選んでもらってもかまいません」
「いいえ、朋也くんならわたしを選ぶはずです!」
テンパって、自分がすごいことを言っていると理解できていない。
「えーと、もしかして欲求不満だったり?」
「え?」
「悪いけど、今は汐がいるから。オッサンの家に汐を泊めた時にでもな」
「はい…」
「あっ!ああぁぁぁ///」
「わたし、すごい恥ずかしいこと言ってた気がします///」
「すごいもなにも、とてつもない爆弾発言だったけどな」
(汐の前でやられたらたまったもんじゃない。教育上よろしくないし、何より…)
(『パパ、○○ってなに?』なんて言われてみろ、受け答えに苦労するだろ?)
(渚はこういった爆弾発言が度々あるからな… 渚らしいっちゃ渚らしいけど)
「パパおかえりー」
ようやく汐が迎えにきてくれた。
朋也は恥ずかしさで言葉にならない声を発している渚の隣を抜け、汐のもとへ。
「ただいま。汐は何してたんだ?」
「うーんと、えーと…」
何やら言葉を選んでいるのか、汐はなかなか答えてはくれなかった。
「ひみつ!」
「秘密?パパには教えてくれないのか?」
「うん、パパにはひみつ〜」
「秘密なんて、教えてくれないとパパ拗ねちゃうぞ」「うーん」
「朋也くん、そのあたりで諦めてくれませんか… ねっ?」ちらっ
渚はカレンダーに視線をやり、ウインク一つ入れた。
朋也もそこで汐が何を隠しているのかが容易に想像できた。
そして、汐がやろうとしてくれていることを考えると、嬉しさで心が温まる気持ちになれた。
―10月30日・岡崎朋也の誕生日―
汐が秘密にしていたこと、それは誕生日プレゼントに他ならなかった。
「ありがとう。おっ、上手にかけてるな」
「えへへ」
汐が描いた絵には人間二人に団子が3つ。おそらく汐も好きな団子大家族だろう。
みんな笑顔で描かれていた。
「これがパパかな?」
朋也はその中の一人、自分であろう絵を指して確認をとった。
「ううん」
「え?違うのか」
一番身長が高く描かれている絵が自分だと思ったのだが、どうやら違ったようだ。
(それじゃこっちの一回りちっこいやつか?それは汐か渚のどっちかだと思ったんだがな)
「これはね、アッキー!」
「んあ?オッサン!?」
「うん!」
(なんでオッサンが… まあいいや)
「それじゃこっちは?」
「それは、さなえさん」
「早苗さん…」
「待ってくれ汐…」
「ん?」
「パパの誕生日プレゼントなのに何故パパがいないんだ?」
「別にダメとは言わないが、できればパパを描いてくれたほうが嬉しかったのだが…」
汐からの誕生日プレゼント。ダメ出しするのは可哀そうだが、少々複雑な気分。
「パパもいるよ?」「え?」
「どこに… もしかして裏面か?」(うむ、真っ白だ…)
「もう一枚あるのか?」
「ううん、これだけ〜」
「………」
「渚、どういうことだ?」
理解できない。朋也は真相を知っているであろう渚に助けを請うことにした。
「しおちゃん、どれが朋也くんなのか指刺してあげてください」
「コレ!」
汐は団子を指していた。
「これ!?これって団子じゃねーか」
「はい、お団子さんです。ちなみに残りの二つはわたしとしおちゃんです」
「なっ、なんで、団子なんだ…」
「可愛くないですか?」
「かわいい?」
「………」(かわいいっちゃ可愛いかもしれんが…)
「パパ、よろこんでない…」シュン
一生懸命描いた絵を喜んでくれなかったと思った汐は、落ち込んでしまったようだ。
「え?あっ、すっげーうれしいぞー」
「そうだ!この絵をパパの一生の宝物にしよう」
少々大げさなリアクションだが、今はそれよりも汐の笑顔を取り戻すことが先決。
「パパ、よろこんでくれた。うしおもうれしい」にぱっ
「ホッ」
なんとか汐の笑顔を取り戻すことに成功。朋也は安堵した。
それになにより、どんなものでも愛する娘からのプレゼント嬉しくないはずがない。
「それとね、パパにもうひとつプレゼント」
「もう一つですか?それはわたしも教えてもらってませんでした」
「パパ!」「ん?」
「うしおがおおきくなったらね、パパとけっこんしてあげる!」
「おっ」「わぁ」
「そうか、汐はパパと結婚してくれるのか。ありがとう」
「でも、結婚したいの間違いじゃないのか?」
「朋也くんは欲張りさんですね」
「あはは、嬉しくて調子に乗りすぎちまったか」
「えへへ」「ふふふ」
―十数年後・汐の誕生日―
「これで私も結婚できる歳になったね!」
「大きくなったな… パパは嬉しいぞ」ウルウル
「やめてよパパ。最近涙もろくなってない?」
「娘を持つ父親ならこんなもんだ」
「そうなのかな?」
「オッサンにも聞いてみなさい」「ふーん」
「じゃあパパ、約束守ってあげるね」「ん?」
「私と結婚しよ?パパ」
「けっ結婚!?」「うん」
「昔、パパの誕生日に結婚してあげるって言ったよね?」
「えーあー、言ったようなきがしなくも…」
「忘れちゃったの?」
「忘れてないぞー。忘れるもんか」
(あの時は嬉しかったが… 今更このネタを持ちこんで何をする気なんだ?)
「それじゃ、結婚しようよ」
「まったく、何考えてるのか知らんが、汐は父親離れがまだまだできないみたいだな」
「してほしいの?」
「いや、まったく」
(何かおねだりでもしたいのか?まぁある程度冗談に付き合ってやるか…)
「約束なら仕方ないな。汐、結婚しよう」
「わーい、パパと結婚できるー」
「あの時は結婚してあげるだったのに、今はしてほしいみたいになってるじゃねーか」
「どっちでもいいもんっ」
「そうかい」
「あっ、ママ」
父と娘の会話に参加していなかったはずの渚がいつの間にか側にいた。
「ん?渚がどうした…」
「朋也くんは… 朋也くんは…」ウルウル
「なっなぎささーん」アセアセ
「私のことが嫌いになっちゃったのですね」
「はあああ!?」
「朋也くんはしおちゃんと結婚して。わたしは愛想つかされて…」
「捨てられちゃいました」うわーん
「何いってるんだよ、こんなの冗談に決まってるだろ」
「冗談?」グズッ
「そうだよ、冗談に乗ってやっただけだよ」
「私は本気だったのに… パパは冗談だったんだ」ボソッ
「え?」
「ひどい… ひどいよ【朋也さん】」
「ちょっ、汐!?」
「なに言ってるんだ汐、冗談もそのぐらいにしてくれないか」
「私のこと嫌い?」
「嫌いではないが…」
「じゃあ好き?」
「好きっちゃ好きだけど、それは…」
「朋也くんがしおちゃんのこと好きっていいました。もうわたしはここにいられません」
「え?なぎさーどこにいくー」
渚はドアを勢いよく開けて走り去ってしまった。
「渚を追いにいか… 汐、離してくれ」
朋也の足にへばりついて離さない汐。
「えーママのこと追うの?せっかく二人でラブラブできるのに」
「そろそろ冗談も止めにしような」
「はーい」
「さて、どこに行ったのやら」
「どうせ実家でしょ?」
「それもそうだな」
二人は渚がいるであろう古河パンに向かって歩き出した。
―古河家―
「んで?渚は不貞腐れて実家に帰ってきたってか?」
「別に不貞腐れてなんかいません!」むすっ
「いい歳して夫婦喧嘩かよ…」
「朋也くんは最近しおちゃんにばかりデレデレしちゃって、私のことなんて見向きもしてくれません」
「娘に嫉妬か?」
「嫉妬じゃありません!」
「渚も朋也さんに甘えてみてはいかがですか?」
「そっそんな、しおちゃんがいる手前恥ずかしくてできません」
「今更それを言うか?」
「汐からしょっちゅう聞かされるぞ『パパとママがバカップルすぎて疲れる』てな」
「ふえぇぇぇ!?わたしそんな覚えまったくありません」
「無自覚ときたもんだ」
「いつまでも仲がよろしくて、喜ばしいことじゃありませんか」
「ハッ、当たり前よ!夫婦円満じゃなきゃ小僧を殴り飛ばしてやるってんだ」
「ママきてるー?」
「汐か?きてるぞー」
「あ!いたいた。もう、ママったら途中でどっかにいっちゃうんだから」
(だって朋也くんと、しおちゃんが)むー
母を迎えに来た娘。そしてこの親の対応。
どっちが親子なのか分からなくなる。これも早苗から続く容姿の成せるわざなのか。
「さっきのは冗談だから。かえろ?ほらパパからも何か言ってあげて」
「渚…」「朋也くん…」
後を追うように朋也も姿を現した。
「汐が言った通り冗談だ。本気なわけないだろう」
「俺が女性として愛しているのは世界でただ一人、渚だけだよ」
「朋也くん///」「渚」
抱き合う二人。
「えへへ、朋也くん大好きですっ」
「そこは愛してるだろ?」「そうですね。愛してます」
渚がキスを迫ってきた。
「渚、ストップ」「ふえ!?なんで止めちゃうんですかぁ」ウルウル
「周りを見ろ」
「まわり?………はっ!?」
「あああぁぁぁ///」
「わたしったら家族が見てる前でこんなことを///」
(はずかしいですー)
「汐が言った通りじゃねーか。むじかく無自覚」
「あうー///これからは注意します」
「気にすんな!好き勝手やれ!」←この頃は許容してるんだねアッキーも
「わたしが気にします!!///」
(やれやれ、これでママもしばらくは甘えん坊になるかな)
(そろそろ一人部屋が欲しいと、引っ越し希望してみようかな…)
こうして岡崎夫婦の仲は汐によってたえずラブラブのままなのであった。
汐ちゃんの苦労は続く。(本人は最近楽しんでやってるのはここだけの話し)