注意!
この作品は、「智代アフター」の盛大なネタバレがありますので、未プレイの人は気をつけてください。
かくれんぼ
by キーチ
「なあ、智代。ちょっと散歩しないか?」
「散歩?急だな」
「いや、いい天気だなって思って」
そう言いながら朋也は窓の外を指さした。秋の空は青く晴れ、地面には黄色や赤の木の葉がいっぱい落ちていた。
「そうだな......それもいいかもな」
「おっしゃ」
朋也の笑顔がうれしくて、智代も笑う。
朋也が支度している間に、智代は簡単なお弁当を作った。水筒にお茶を入れ、塩味がちょっときつめのふりかけをご飯にかけて、さっとおむすびを作る。6つできたところでちょうど朋也が準備を整えてきた。
「じゃあ、行くか」
「うん」
手、寒いだろ、と朋也は言った。
そうだな、と答えたと思う。すると、朋也は智代の手をさっと自分の手でくるむと、自分のポケットの中に入れた。
こうすると、暖かいよな、と朋也は言った。
智代は、俺のポケットの中で暖かい。俺は、智代の手があるから暖かい。
子供のように無邪気に笑いながら言われると、ついつい笑って頷いてしまった。
智代は手を握ってみる。
うん、暖かいな。朋也の言うとおりだ。
「あの山に行ったら、すっげぇきれいなんじゃないか」
「そうだな......じゃあ連れて行ってくれ」
そう言って智代は朋也の腕に絡まった。
「はは、智代は甘えんぼだな」
「違うぞ。朋也だけだ、私が甘えるのは」
「はいはい」
朋也は苦笑いすると、ゆっくりと歩き出した。まるでそんな時間がずっと続けばいいな、そんなメッセージがこもっていそうな足取りだった。
「朋也、朋也」
「おう」
「好きだからな」
「ああ。俺も智代が大好きだ」
「うん!」
そのまま朋也に抱きついた。朋也の匂い。朋也のぬくもり。
秋はやっぱり夕暮れだよな、と朋也は言った。
赤く染まった木の葉の間から、オレンジ色の太陽の光が差し込んで、辺りを染める。
親父と、よく散歩したんだよ、と照れ笑いをしたのを覚えている。
また、行けるといいな、と空を見上げながら寂しく笑ったのも、覚えている。
行けるだろ、そう思えるんだったら、と言うと、朋也は智代をじっと見た。
何だ?と聞くと、そのままキスをされた。
最初はそっと。次は思いっきり。
そしてぎゅっと抱きしめてささやいてもらった。
智代、愛してるって。
「やっぱ智代って料理の天才だよな」
おむすびを頬張りながら朋也が笑った。
「ただのおむすびだぞ?朋也だって作れる」
「そういうのじゃなくてさ、ほら、散歩しようって時にさっとおむすびをさ、作ってくれるのがすげぇって」
「な、何だ、照れるじゃないか///」
智代は頬を赤くして、くすぐったそうに笑った。
「俺、嫁さんは智代みたいなのがいいな」
「みたいなのって何だ?それじゃあ私じゃない女と結婚するようじゃないか」
そう茶化すと、朋也はバツが悪そうに顔をそむけた。
「だ、だって、言い切っちまうとプロポーズみたいだろ」
その照れた顔がかわいくて、言ってることが今更過ぎて、智代は朋也に飛びついた。
「遅すぎだ、バカ」
親父とはよくかくれんぼして遊んだんだ。
食後に歩き回りながら、朋也が言った。
そしてぽつりぽつりと、二人で暮らしていた時のことを話した。
いろんな町を回ったこと。楽しかったこと。悲しかったこと。
不自由なこと。嫌だったこと。
でも、そんな思い出でも、もう笑いながら話せた。
そんな朋也に、智代が提案したのだった。
「きゅーじゅーきゅー、ひゃーく」
数え終わってから振り返ると、朋也は本当にどこかに消えてしまっていた。
「ともやー!どこだー!」
大声で呼んでも、遠くでやまびこが聞こえるだけだった。
「よーし」
腕まくりをして、智代はあちこちを探し始めた。木の後ろ。落ち葉の下。茂みの中。
しばらくしてから、急に不安になった。黄色と赤と茶色の世界に一人、智代だけが残された気がした。
「ともやー!!本当にどこだー!!」
さっきよりも大きな声で朋也を呼んだ。返事はやっぱりなかったけど。
「……朋也」
だんだん本当に寂しく、そして怖くなってきた。静かな山の中が、何だか不気味に感じられた。
「朋也……朋也!」
寒くなってきた気がする。暗くなってきた気がする。
一人になった気がする。
「朋也ああっ」
すると
「智代っ」
「うわっ」
急に横から何かがぶつかってきた。
「智代、ゲットだぜ」
「......ふ、ふん。かくれんぼは私の勝ちだな」
「何言ってんだ、俺がいなくて寂しかったくせに」
「......」
「大丈夫だ」
「......」
「俺はどこにもいかない。ずっと智代のそばにいる」
「......うん」
そう言って、智代はうなずいた。
「本当に、ずっとそばにいてくれるよな」
智代は笑った。場所は朋也との思い出の山の中。ちょうどいい具合に落ち葉が地面につもっていたから、そのまま寝転がって空を眺めていた。
あの日の言葉を、忘れない。
いろんな思い出を、忘れない。
朋也のこと、絶対に忘れない。
そう心に誓って、智代はポケットからそれを取り出した。
なくさないように銀色のチェーンに繋がれた、シンプルなデザインの指輪。
二人が家族だった、いや今でもそうだという証。
「誕生日、おめでとう、朋也」