第一章 第二章
月日が経つのは早いもの。
子供の成長を間近で見ている親はそう感じずにはいられないのでしょう。
それは自分達の成長が止まって、あとは老化してゆく一方だからなのかもしれない。
子供は日に日に大人への階段を駆け上がり、その魅力をどんどん開花させてゆく。
しかし親は「白髪が増えたな…」「皺が増えたな…」
なんて悲しい現実にいかに抗ってゆくばかりの毎日。なんとも虚しい比較だろうか。
それでも若くして娘の『汐』を授かった『岡崎朋也』と妻の『渚』
年上女房の渚でも歳は30ちょい。まだまだ若さも衰えてはいません。
それどころか家系の遺伝でしょうか?老化の進行が兎に角遅い。
それに渚は幼顔とあって、彼女の母親と子供の三人で一緒にいようものなら…
『どこまでが姉妹でどこからが子供?』と彼女達を知らない者からすれば混乱する容姿をしています。
実は『母に娘に孫』ですと答えれば何度驚愕することになるやら…
そしてそこに秋生まで参加しようものなら。
確固たる証拠をつきつけないかぎりは、古河一家の特異な遺伝子を信用してくれないのでしょう。
岡崎家の一人娘の汐。母親の身体が病弱だったこともあって、子供は一人かぎりとなっています。
そんな彼女は両親から沢山の愛情を注がれて、優しくて可愛らしい女の子へと成長してくれました。
しかし、近頃は余計な知識までもつけつつある。
彼女に悪影響を与えているのが両親の同級生。春原陽平の妹『芽衣』
そして母親が学生時代お世話になっていた教師。芳野公子の妹『伊吹風子』
その二人が汐を奇想天外な小悪魔少女へと変えてしまった代表格です。
風子のように奇想天外な発想をしてみたり、芽衣のように小悪魔におねだりしてみたり。悪戯をしてみたり。
しかし元が良い子なので行動が控え目になるのが、またなんとも可愛くて。
朋也は娘の成長に頭を悩ませつつも、可愛らしい娘を溺愛してやまなかった。
分かる人には分かる説明方法。朋也がそのまま古河秋生みたいになったようなもの。
やっぱり野郎二人は似た者同士。
結局行き着くところは『可愛いは正義』なのでした。
汐も中学一年生の13歳。
初恋はまだ経験していないみたいです。しかし『パパと将来は結婚する』なんて言っていた頃が懐かしい。
そのうちひょっこりボーイフレンドの一人でも現れてもおかしくない。
娘を溺愛するあまり、日々悶々とまだ見ぬ男へ嫉妬をしている父親がいたとか。
そんな可愛らしい容姿をしている汐は近頃『美』に興味を持ちだしています。
歳も歳ということで化粧も七五三など特定の行事がある時のみしかしたことがありません。
当然の様に自分専用のメイクグッズは持ち合わせていない。
それでも、彼女も幼くても一人の女性。
容姿をさらに魅力的にさせる化粧に興味を持ってもなんら不思議ではありません。
◇◇◇
汐も中学生となったら両親に了解を得ずとも好きな様に時間を過ごすことが許されています。
勿論。それは両親を心配させない範囲でのことです。
だからこうして今も、単身で母親の実家に遊びに来ていた所でした。
古河家に遊びに来た時は祖父母と代わりばんこに遊び。
時にはパン屋の店番を手伝っておこずかいを貰ったり。
早苗の奇抜なパンの試食してみたり…
そういえば幼い頃に「不味い」と一掃してから行われていないのでした。
子供は無垢。悪意がない悪意って怖いものです。
あの時は泣き虫な早苗でも泣かずに凍り付いて、しばらく再起不能状態となっていました。
いつもなら汐の相手を一人がして、もう一人が店番。
パンが品薄になれば秋生が厨房へと籠って早苗が店番。そんな流れです。
しかしただ今の状況は店に誰一人いない状態。客もいなければ店番すらいない。
古河パンではこんな状況はよくあることですけど、今日はこうなる理由があったのです。
なんでも早苗が午後から出かけることが決まっていたそうで、秋生が一人で店を切り盛りするのが面倒だからと
午後は店を閉めることに決まっていたのです。
閉店直前から遊びに来ていた汐は、閉店作業を手伝ってから秋生と遊ぶことに。
そして早苗は外出のために御粧しをしていました。
そこにひょっこり汐が現れて、隣で早苗の身支度の様子を眺めていた時―――
「いいなぁ…」
祖母にしてはまだまだ現役な容姿をしている早苗。
彼女がさらに綺麗となってゆく姿に汐は羨ましいと感情を口にしました。
「汐も化粧に興味を持つ歳になりましたか」
女性をさらに美しくする化粧。汐もそれに興味を持つ年頃になったようです。
「そういえば…」
「汐、ここに座ってください」
「うん」
そう言って早苗はメイクボックスから新品の口紅を一つ取り出して封を開けた。
そして汐を鏡の目の前へと誘導しました。
「口紅だけですけど、どうでしょう。御粧ししてみませんか?」
「いいの!」
「はい」
「ありがとう早苗さん」
「まだうまくルージュがひけないと思いますから、私がしてあげますね」
早苗の好意によって汐はメイクをすることになりました。
可愛くなれるかな?
―――
――
―
「はい。かわいい女の子のできあがりです」
「ありがとう早苗さん。えへへ///」
控え目な紅いルージュが唇にひかれただけなのに。
ちょっと大人になった気分になります。おませでキュートな女の子のできあがりです!
「うおおおおおおお!!めっちゃプリチーーーーだぜ。汐、お前は世界で一番可愛い女の子だ」
そして五月蠅い男も一人加わって。可愛いお姫様の誕生を祝ってくれました。
しかし秋生は孫を目に入れても痛くない。という例えが似合う男だこと。
それにしても『一番』なんて嫁が居る前で軽々しく言っていいことですかね?
「アッキーもありがとう」
「これは困りました。秋生さんのハートは汐に奪われてしまったようです」グスン
案の定。泣き虫早苗の登場。このままではせっかくの化粧が涙で台無しとなってしまいます。
「あ〜 アッキーが早苗さんを泣かせた」
「ぬお〜っ!! 許してくれ早苗。もちろん早苗も同率一位だ」
「そしたら渚も一位にしてあげないと可哀そうですね」
「嘘泣きだっただと!?俺としたことが二人にしてやられたぜ」
どうやら早苗は嘘泣きをしていたようです。次にはにこやかな笑顔を浮かべています。
そして隣では「ニヒヒ」なんて台詞が似合いそうな、小悪魔スマイルをした汐がいました。
これは秋生が一本とられてしまったようです。
「これは汐にあげます。これで口紅を綺麗に引く練習をしてください」
「やった〜♪」
初めてのメイクグッズを一つゲットしました。
こうして汐は両親の目を忍んでメイクの練習をすることに。
どうして両親の目を忍ぶ必要があるのか?
これには彼女曰く『ふか〜い』事情があったからでした。
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