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 次の日、誠は例によってところどころ痛む体を引きずって教室を移動した。

 少しはましになっているとは思う。結構筋肉(あ、鬼門だったっけ)はついてきた気がするし、戦いの勘というか、流れの掴みもよくなった。ただ、このドサドな訓練プログラムを考え付いたどっかのド馬鹿野郎は、それすらも考慮していたわけで、つまり新入生が徐々に耐久性を上げていくのも計算に入れているわけで、結局は筋肉痛とは慢性的な関係、お義父さん僕はこの筋肉痛さんを生涯の伴侶といたしますな構図ができるわけである。

「ねぇねぇ、どう思う、今回の生徒会選挙?」

 不意に、前にいる女子の話声が耳についた。

「う〜ん、悩むなぁ。だれにする?」

「挟間君、どうかな?結構真面目っぽいし」

「だね。あ、そうそう、青葉明日華、あれどう思う?」

 そうだ。青葉明日華なんてどうよ?

 

 

「あれ?あたしはやだなぁ」

 

 

「何でさ?」

「だってさぁ、青葉って言ったら、ここいらじゃ有名なお金持ちじゃん?絶対にそういうの目当てで票入れる馬鹿いるっしょ?むしろ、煽ってるって感じ?」

「そうかなぁ……」

「絶対いるって。ここで青葉をサポートしておけば、後々自分にも何らかの好機をくれるに違いないって」

「まじ?」

「そうだよ。大体さ、今回たった一人の女子じゃん?何だかさ、実力なしでも投票するのって多そうでさ。あたしそういうの大っ嫌い」

「そっかぁ……そうかもね」

 

 二人の会話を、どこか遠くの出来事のように捉えている自分がいたのに気付いて、誠は慌てて足を踏みしめた。

 そうだ。俺はここにいる。今のは幻聴じゃなくて、本当に思われてることなんだ。

 誠は一瞬目を閉じて、事実を受け入れた。次に目を見開いた時には、また前に進む、いつもの自分だった。

 不意に、背中をつつかれた。

「なあ谷塚君」

「うおっだ、誰だっ!……て、青葉か」

「ああ……その、こっちでいいのか?」

 不安げに周りを見回す。

「また発作か?」

「そうなんだ……で、さっき谷塚君を見かけたから、後をつけさせてもらった」

「へぇ……さっきっていつだよ?」

「ん?男子トイレに入るところから」

「そんなところから追い回すなよっ!」

「ああ、心配するな。トイレの外でいたから、中まで入ったわけじゃない」

「全然安心できないよっ!だいたい、トイレから出てきて、誰もいなかったぞ!」

「まあ、隠れていたからな」

「隠れる意味あったの?!ねえ、隠れる必要がどこにあったんだよっ!!」

「谷塚君、大声出している暇はないぞ。もうそろそろ授業が始まる」

「そうか、遅刻はいけないな。ははは……って、いきなり一般常識人に戻るんじゃねえ!!」

 あーもうっ!と頭をかきながら、誠は教室に入った。後ろにはすました顔で明日華がついてきている。

「なぁ青葉」

「うん?何だ」

「試験……絶対に一位になるぞ」

「?元からそのつもりだが」

 もし実力がないのに勝つのが危惧されているなら

 実力を歴然と、毅然と、完全に示せばいいだけのこと。

「放課後、特訓な」

「望むところだ、谷塚君」

 

 

* * *

 

 

「で、実際どうよ?」

 恭一が小声で聞いてきた。

「ん?まあ、何とかなるんじゃねえか?やることは全部やったし」

「そうは言うけどよ、あそこにいる連中も、試験が始まるまでは『やるべきことはやったから大丈夫だ』ってな顔してたぜ?」

 恭一が指さした方向には、精根尽きはてて真っ白に燃え尽きた、人だったモノが二つあった。二つの人型燃えカスの唯一の違いは、片方の目から流れるのが感動の、そしてもう一つの目から流れるのが悔恨の涙であることだけであった。言うまでもなく、会計適性試験の受験者である。

「まったく、どんな試験だったかは知らねえけどよ。あんなになるまでやるのかよ?」

「そういや知ってるか?会計の試験な、制限時間は三十分だったんだけどさ、現会計と副会長の問題は最初の十分で解けちゃったんだとよ」

 不意に目の前の男子生徒が言った。

「マジかよそれ」

「ああ。だけど生徒会長の質問になってから、様子がおかしくなって、結果があれ、だとさ。いったいどんな質問だったんだか」

 男子生徒が肩をすくめた。

「お、はじまるぞ」

『それでは、天栄学園生徒会執行部書記適性試験を始める。被験者は一年一組酒向臣雅、一年三組倉持修平、そして一年四組青葉明日華の三名である』

 マイクから神谷の声が体育館に響き渡った。広い体育館の中央には机と椅子が三つ。その前にはテーブルと三つの椅子が並べてあり、机には被験者が、テーブルには出題者が陣取っていた。

『ではまず現書記、若川優一からの問題を。ほいよ』

『あ、どうも。はい、若川です。皆さん頑張ってくださいね。僕が選んだのは「岩風基本六法」です。では行きます』

 ぐ、と誠は拳を握った。六法全書は明日華がヤマとしてみなした書物の一つであった。

『法令第一条:ほうりつはこうふのひよりきさんしまんにじゅうにちをへてこれをしこうすただしほうりつをもってこれにことなりたるしこうじきをさだめたるときはこのかぎりにあらす』

 カリカリ、と紙にシャーペンが走る音が聞こえた。ちなみに正解は「法律ハ公布ノ日ヨリ起算シ満二十日ヲ経テ之ヲ施行ス但法律ヲ以テ之二異ナリタル施行時期ヲ定メタルトキハ此限二在ラス」である。片仮名系の法文を選んでくるあたり、現書記も結構厳しい。

 現書記の問題は三つだった。最後の引用が終わった時点で、三者とも息をついて答案用紙を提出した。しばらくして、神谷が再びマイクを握る。

『うむ、今の三問、三名とも合格とする。予習はしてきているようだが、それにしても六法全書は読まれていたのではないか、若川?』

 そうだそうだ、と野次馬の中から声が上がる。

『つまらんのう……さて、次は生徒副会長の池田一からの問題だが……まあ諸君も知っての通り、頭が固いからな。あまり期待はしないでやってくれ』

『だ・か・ら!これはゲームじゃないんだってっ!!れっきとした試験なんだから、まともにやってくれよっ!』

『余はまじめだ。まじめに楽しんでおる』

『あーもう、何でこうわからないかなぁ……おほん、生徒副会長の池田です。健闘を祈ります。俺の問題はこの「早口言葉全集」から出しますので、しっかり聞いて下さい』

 地味に嫌な書物だった。

『しんじんしゃんそんかしゅによる、しんしゅんそうそうしゃんそんしょー』

 新人シャンソン歌手による、新春早々シャンソンショー、か。

 誠は何とか文を頭の中で描くと、ふと隣の恭一に目をやった。

 頭から煙が出ていた。

「しんしゃんしょんしゃしゃし……」

「何語だよ、それ?」

『次。やしのみをししがくいひしのみをひひがくう』

 あ、これ結構簡単か。そう誠が思ったとたん、はたと気づいた。

「なあ谷塚」

 くい、と恭一が誠の袖を引っ張った。

「やし、しし、ひしとひひって、漢字どう書くんだ?」

 思わぬ落とし穴だった。

 正解は椰子、獅子、菱と狒狒なのだが、これはもうとにかく明日華のボキャブラリーの広さと漢字の知識に祈るばかりだった。

『最後の質問。ししじる、ししなべ、ししどんぶり、しししちゅー、いじょうしししょくししょくしんさいんしんあんしししょくしちしゅちゅうのししゅ』

「し……」

 最初の言葉を復唱しようとして、恭一はすでに諦めたようだった。

「つーかさ、これ淀みなく音読してる副会長、すごくね?」

「だな……」

 やがてシャーペンの音が止む。答案を収集して、急に神谷が笑いだした。例の大聖堂の鐘のような声で。マイクを通して。フィードバックキンキンで。

『はぁっはっはっは!これほどまでに清々しい降参も珍しいものだなぁ。この胆力、まっことに惜しいが、残念ながらこの辞退は受け入れなければなるまいて』

 池田が覗き込んで、苦笑を洩らした。

『そうだな。こればかりは返す言葉もない』

『うむ。辞退確かに受け取った。大儀であった、倉持修平氏』

 ええっ!という声が聞こえたが、当の本人は不敵な笑みを浮かべて肩をすくめてみせた。

「ま、楽しかったしね。ご両人、がんばってね」

 そう言うと、倉持修平は体育館を後にした。

「っしゃ、これで残るは一人!」

「……あまり楽観すべきじゃないかもしれない」

「どうしてさ?」

「あのな、青葉はこれに勝たなきゃいけない。そう、健闘しただけではだめなんだ。青葉はあの酒向って奴よりもいい成績を取って、それであいつが一番相応しいという素質を見せなければいけないんだ」

 そう

 書記の椅子は一つしかない。そして真っ向勝負による勝利ほど、明確に勝者の資質を表すものはない。

『ふむ……どうやら最後まで二人残ったようだな。では、ここで余からの出題だ。出典は、そうさな、これにしよう』

 そう言って神谷が取り出したのは、本の中でも大きい代物だった。早い話、神谷が持っていても、サイズ的に不自然じゃないほど大きい本である。

 装丁は何かの革。ページは羊皮紙。どことなく禍々しい感じのするそれを、神谷はおもむろに開いた。

『これは、十八世紀のイタリアで書かれたものでな、題を「グラシャ=ラボラス祭祀書」という。ソフィアテクニスという魔術師の書いた、れっきとした魔道書だ』

 

 

 なんですと?

 

 

『大した魔法は書いていないが、このソフィアテクニス、なかなかの小心者でなぁ。本を読む分には全く問題はないのだが、書き写したりすると精神を崩壊される、という魔法をかけおった。まあだからあまり広まらず、内容も大したものじゃないとされて廃れていったわけだが……』

『あ……い……な……』

『あいな?』

『あんたはっ!いったいっ!なんてことばかりしやがるんだぁっ!!』

 最初に突っ込みを入れたのは、他でもない池田だった。ちなみにすぐ後に来たフィードバックで、集まった生徒の大半は耳を塞いだ。

『書記ともあろうもの、本に怖気づくことはあってはならん。天栄の生徒会書記だと名乗りたいならば、我こそは、とこの書物、書き留めて見せよ』

『あんたのトンデモ論理で、人を一人病院送りにさせるつもりか!!』

キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 池田を含めほぼ全生徒が悶絶する中、神谷はばつが悪そうに耳をホジホジした。

『うるさいやつだのう……しかしなあ、余にはできたんだよ』

「は?」

 ぽかん、と口をあける恭一。

『この魔法、魔道書の文をそっくりそのまま載せると発動するようでな……さて、それだけ言えばよかろう。残った二名に問う。汝ら、天栄学園生徒会執行部書記に相応しい者か否か。我こそは、と思うのならばこの試練、受けて見せよ』

 ざわざわと声が響く。その中、誠は中央に並んだ机を凝視した。

 そして静寂が体育館に戻った時、群衆の視線を浴びながら

 青葉明日華は

 不敵に笑った。

「受けて立とう、生徒会長殿。この青葉明日華、きっとその文節を書写してご覧にいれる」

「その試練、不肖酒向臣雅、確かに受け入れん」

 どよめきが、賛辞の言葉が、人の口から洩れた。

『ふむ、その心意気見事なり。ならば行こう』

 獰猛な笑みが神谷の顔に浮かんだ。

『天栄学園生徒会長神谷鉄也、ここに詠う』

 

 

 それは奇妙な言葉の羅列だった。英語……ではない。イタリア語?それとも人智の及ばない言の葉であったのだろうか。

 何故か学校の体育館ではなくて、もっと異質な、暗い部屋で埃をかぶっているフラスコやら書物やら標本やらと一緒に閉じ込められた気がした。そして人々の合間を何かが通り過ぎる幻影を見た気がした誠は、冷めた頭の中で思った。

 ああ、これは本当に本物なんだな、と。

『……以上である。被験者両名、大儀であった』

 その声で、なぜか体育館に陽が戻った気がした。暗闇が消えた気がした。

 ふらり、と明日華が立ち上がり、答案用紙を提出した。その足取りを見て、誠の顔から血の気がさっと引いた。

「お、おいっ!青葉っ!」

 明日華は誠と恭一を見つけると、微笑んで頷いた。

「何とか、なったみたいだ」

「大丈夫か?ふらふらしてるぞ」

「ああ……少し緊張してしまってな。今糸が切れた状態なんだ」

 すると、周りがまたざわざわと騒ぎ出した。見ると、神谷と池田が体育館の中央に明日華と酒向の答案を持って立っていた。
『判定が決まったので、これにて適性試験の合格者を発表する。合格者……』

 一同が固唾を飲んだ。静寂の中、神谷が厳かに告げた。

『一年一組酒向臣雅、並びに一年四組青葉明日華。両名とも生徒会書記にふさわしい人物であることをここに宣言す』

 歓声は、さほど湧かなかった。納得したような、しないような顔をする生徒に向かって、神谷が続けた。

『だから適性試験だと言っておろうが。適切だと思ったら三人とも合格できたもののな。しかしまあ、これでは諸君らも不満であろうから、最後の問題のみ答案を公開するが、いいな?』

 最後の問いは明日華と酒向に向けてのものだった。無言でうなずく二人。

『うむ。ではまず酒向氏の答案だが、なるほどこれは考え付かなかったな。よくもまあ頭の回る男だわい』

 そう言って神谷が頷くと、どこからともなく生徒会の役員と思われる生徒が投影機とスクリーンを持ってきた。そして映し出されたのは

「あ」

「なるほど」

「これは……さすがに考えつかなかったな」

 酒向の答案は、恐らく観戦していた生徒達が頭に思い浮かべていたものだっただろう。すなわち

「カタカナ、とはな」

『ふむ、考えの柔軟性は認めよう。しかし、正確に書き記すという点では少しばかり減点することにはなるが、いや、これもまた見事な答えだ。さて、次は青葉女史の答案だが……』

 投影機に乗せられた答案を見て、誰もが絶句した。

「これ……原文か?」

「ああ。ラテン語の原文だ」

 明日華が得意げに言った。

「ラテン語?」

「知らないのか?古代ギリシャ語と並んで欧州の言語の祖とも呼ばれる言葉だ。昔少し教わったのでな。まあ、十八世紀、魔術、イタリアと当てはめていくと一応の目処はついた」

 そんな言葉を習ったなんて、やっぱり青葉ってお嬢様なのかな。そう誠が考えていると、恭一がわからない、という顔で聞いた。

「で、でもさ、あんな風に原文を書き出していったら、魔法に影響されちゃうんじゃない?それとも偽物だったの?」

 偽物ではないだろう。神谷があの本を読み上げていた時、確かに何か異常な気配を感じた。そう、あれは恐らく魔道書だ。

『ふむ、諸君らの中にもいろいろとこの完璧に近い書写の秘密に関する推測が飛び交っているようだが、もうそろそろ解答編に移行してくれんかの、青葉女史?』

「いいだろう。私は生徒会長殿の読み上げられた物を文として覚え、そして書き写す際に、順序を入れ替えて書き写していたわけだ」

 つまりこういうことである。

 グラシャ=ラボラス祭祀書は、書き写した内容に反応する魔法がかけられている。だから、原文にVolenti non fit injuriaという文が出たとする。そこで原文通りの順序で書き記すと魔法が作動するわけだが、Volenti fit injuria nonという風に書くと、鍵が合わないかのように魔法も作動しない。だから明日華は語と語の間にスペースを空け、間違った順番で、しかし紙の上では正しい順序で文を書いていたわけである。

 無論、簡単にできることではない。まずその言語に流暢でなければ分を把握することはできないし、また文法と記憶能力に秀でていなければ、書き順を変えて尚且つ紙の上に正しい文を載せることはできない。

『というわけだ。さて、どちらが書記に相応しいかは、諸君らの判断に任せよう。では、本日の遊びはこれまでとしよう。さらば』

 豪快な笑いを残して、神谷とその他の生徒会役員は体育館を後にした。

 

 

* * *

 

 

「へえ……どうりでここんところこそこそ何かやってるって思っていたら」

 誠達を押しつぶした臓器売買の人 − 宮田というらしい − が明日華をまじまじと見た。

「すんませんっす」

「ま、いいんだけどね。ああ、あと高田とその連れはこの後片付け頼むな」

 家庭科室の机に皿を並べながら宮田が言った。

「しかし高田みたいな馬鹿が生徒会書記の知り合いとはね……まったく世の中何が起こるかわかったもんじゃないな」

 もう一人の二年生が苦笑した。

 適性試験の結果は全校内に広まり、そして一週間後の投票では明日華が文句なしの大半の票を得て当選した。しかしそのあといろいろと手続きだのなんだのがあり、結局当選祝いをできたのは結果発表から五日後の今日、ということになった。幸い連隊の休日だったので、三人で祝うこともできたし、ついでに恭一と誠が頭を下げて頼んだので、料理愛好会も協力してくれることになっていた。

「しっかしさ、生徒会長はどこであんなけったいな本を手に入れたんだろ?」

「あのな高田、神谷会長にいちいち質問投げかけてたら、意味がないわな。あの人はほんと規格外の化け物だからな」

 宮田が諭すように言った。

「でも……もしあそこで青葉がはったりだと思って書き出していたら、やばかっただろ?」

「まあ、そうなんだけどな……」

「おい、一年坊。確か谷塚だっけ?」

 もう一人の二年生が身を乗り出してきた。

「いい加減もう一人扱いはやめろ。雪野だ」

 こりゃ失敬。

「とにかく、お前、あの本を神谷会長が詠みはじめてから、はったりだと思ったか?」

 首を横に振る。それは絶対になかった。

「だろ?普通ならそう思うし、少しでも異変があった場合は、神谷会長だって止めてたさ。いいかい青葉さん。あんたはこれからあの会長の下でいるわけだけどな。あの人は無茶ばっかりするけどよ、本当にやばい無茶はしないんだ」

「今回のはやばくなかったんですか?」

「やばくねえよ。だって会長がやり方があるって言ったわけだろ?だったらそれは自分で試してみたってことじゃねえか」

 あ、と誠は思った。

「な?だからよ、あの人は無茶苦茶かも知れねえけどよ、理不尽じゃねえ。無茶じゃねえ。馬鹿じゃ決してねえ。ただ境界線が人よりくっきり見えるから、そこにもう少し近づけるってだけだ。これから大変だとは思うけど、信じてやってくれないか」

「ずいぶんと生徒会長殿と親しいようだな」

「そりゃあな」

 雪野が笑った。

 

 

 あいつは、俺のクラスメートだからな。

 

 

「え?」

 誠は神谷のことを思い出してみる。あの体躯。あの存在感。あの態度。

 あれでまだ二年生?

「言っただろ?あの人に関する疑問は無意味だって」

 宮田が苦笑する。

「さてと。そんな話はともかく」

 雪野がオレンジジュースの入ったグラスを全員に配った。

「青葉さん、何かスピーチでも言うかい?」

「いや、でも一つ言わせてもらえれば」

 明日華が誠と恭一に向き直った。

「ありがとう、谷塚君、高田君。君たちに手伝ってもらえたおかげで、ここにこれた。これからもよろしく頼む」

 

 いい笑顔だよなぁ

 誠は心底そう思った。

 

 

「乾杯っ!」

 

 

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