第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章
話しを聞いてみると、やはり友人達が俺の誕生日を祝ってくれるらしい。
それなら事前に一報を入れてくれればよいものの…
そこは驚かせたかったとのことで、当日まで知らせてくれなかったようだ。
もし俺が彼女の家に泊まり込みだったら、こいつらはどうしていたのだろう?
その問いかけには杏が鼻で笑って応えてくれた。
頭にきた俺は杏にお返しをすることにした。
どうせ杏も一人身で寂しい思いをしているのだろうと一矢報いたつもりでいた。
しかし俺は馬鹿だ。
久しぶりとあって感覚が鈍っていたのか… 杏に一矢報いるなど自殺行為。
ものの二秒で俺は地べたに這いつくばることになった。
「朋也くん大丈夫?」
「ことみか… 俺はもうダメかもしれん…」
「朋也くんがお星さまになっちゃう」
「俺の灰となった骨はアドリア海に撒いてくれ」
「どうして?」
「大海原を旅することが生前の夢だったのさ」
「うん、わかった。朋也くんの夢はきっと私が叶えてあげるから」
「ありがとう、ことみ…」
「ともやくん?ともやくーーーん」
ことみの叫びとともに、俺は目蓋を閉じてその生涯を終えた―――
ことみは卒業後海外に留学して勉学に勤しんでいるそうだ。
なんでも両親の研究を引き継ぎたいとのこと。なんとも涙ぐましい親孝行な娘。
そんなことみも、わざわざ俺のために帰国してきてくれたのだ。
そうとなれば俺もおかえしに、ことみを笑顔にしてやるくらいの労力はいくらでもしてやるつもりだ。
それがこの漫才というわけでもないが、まあ楽しければそれでいいよな?
「岡崎さんとことみちゃんの迫真の演技です!」
「あれが演技…ですか?」
「そんなことで死ぬわけないでしょ。まったく…」
俺とことみの久しぶりの漫才はうまくかみ合っていた。
評価も上々。古河と風子がやけに楽しげでいた。
宮沢も拍手を送ってくれている。うん、ありがとう。
藤林は残念ながら困惑ぎみだったようだ。藤林は真面目だから冗談が通じなかったのだろう。
坂上は相変わらずだなと懐かしむようにクスッと笑ってくれた。
俺たちがいなくなった高校は馬鹿が減って静かになっているのだろう。
寂しいなら春原でも呼べばいいさ。あいつなら女の子の誘いとあったらどこからでも飛んでくるぞ。
挨拶早々ルパンダイブをしてくるから、そこで日頃のうっぷんでも解消すればいい。
坂上のなかの春原なんてサンドバックとしか思っていないのだろうからな。
あれ?そういえばここに春原がいないが…
まあ、いいや。あいつが来たところで五月蠅いだけだからな。
と、ここまで俺は横になりながら亡骸と化していたが、迫真の演技は杏の足蹴りによって終わりを迎えた。
「いつまで寝てるのよ!」
「ぶほっ!?」
そして杏だけには不評であったようで、馬鹿らしいと足蹴にされて漫才は終わりを迎えたのだった。
俺の家だしどこで寝てようと俺の勝手だと思うけどな…
◇◇◇
俺の誕生日を祝ってくれるとあって台所では、杏と坂上がご自慢の手料理を作ってくれていた。
といってもすでに料理はある程度作られていて、最後の仕上げをするだけだそうだ。
実は全員の手料理を振る舞われる予定であったそうだが、一人暮らしの台所は狭い。
それに何より俺が全員分の料理など食えるはずもないので、分担することになったそうだ。
杏と坂上は料理担当。宮沢と古河が部屋の飾り付け。
飾り付けなんているのか? なんて言ってしまえばお叱りを受けるのだろう。
素直に好意を受け取ることにしよう。
そして藤林と風子が部屋の清掃などを任されたようだった。
藤林は安心して任せられる。しかし風子は不安で仕方ない。
今は藤林の指揮のもと風子も一緒になって清掃を手伝っている。
しかし飽きて余計なことをしでかすのも時間の問題だろう。
この見た目は子供。頭脳も子供の伊吹風子と俺の接点は旧姓伊吹公子さん。
今では芳野祐介という俺の仕事の先輩でもある人と結婚している。
その芳野公子さんによってもたらされたものだった。
街で公子さんと偶然出会った時。隣にいたのが風子だった。
その時の俺は風子の幼い外見から、あろうことか公子さんの娘さんかと勘違いしてしまっていた。
今思えばそれは年齢的にありえないことだが…
ちなみに俺の馬鹿な発言を聞いた公子さんは、表情は笑っていたが声色には若干怒りが含まれていた。
「岡崎さんは私をいったいいくつだと思っているのですか?」だと
それから数日間。俺は芳野さんからこっぴどくしごかれることになった…
口は災いのもとである。
その時の出会いから、俺は妙に風子に懐かれてしまったらしく。
リハビリという名目で度々俺の家へと強引にあがりこんできた。
公子さんは迷惑でなければとやんわり断れる道を作ってくれていた。
しかし芳野さんからは「岡崎、頼んだぞ」とパワーハラスメントで俺を苦しめてきた。
芳野さんは俺が大のお人好しということも知っている。
その上、迷惑のように思えて、意外とこの状況にも楽しめているということも察していたようだった。
だからこそ危なっかしい風子を俺に任せていたのだろう。
これが芽衣ちゃんみたいに可愛い妹属性を持った子なら。
俺も喜んで風子を招き入れていたのだろうが…
というわけで我が家の住所を知っている人物は『古河渚』と『伊吹風子』
それ以外にはかぎられた人物にしか教えていない。
この二人が集団に参加してしまっているから、俺の家を特定されてしまったのだろう。
―――
――
―
そうして俺はことみの膝枕を堪能することになった。
『なぜに?』
俺も理解できない。流されるまま俺はことみの柔らかい太ももに頭を預けることになった。
膝枕を提案された時は俺も躊躇した。しかしことみが涙目になって
「朋也くんいじめっ子」
とお決まりの台詞を言うものだから、渋々俺は彼女の突拍子もない行動に付き合わされることになった。
膝枕をされてから状況説明を受けた。
なんでもことみは俺に直接世話をする係に任命したらしい。
ちなみに全員参加のもとジャンケンでこの役を決めたそうな…
勝者は言わずもがなことみ。しかし膝枕がどうしてお世話になるのだろうか?
そんな疑問も膝枕を堪能すればどうでもよくなった。
さて、せっかくの至福のひと時。俺も男だ。この状況を楽しんで何が悪い?
ふむ、柔らかい太ももが俺の頭を優しく支えてくれている。
こいつは癒される。
しかし女の子のいい匂いもして… うむ、少しばかりドキマキしてしまう。
我ながら女性との交際経験まるっきしなしは問題アリアリなようだ。
ただそれ以上に俺の心を揺さぶるものが視界の目の前に存在する。
視界の半分を遮る小山が二つ。正直言ってたまりません…
「ふぐっ!?」
そして俺の顔面は柔らかいマシュマロの塊によって圧迫されていた。
やばい… いろいろな意味でやばすぎる…
この状況下で息なんてすることもできず、声すらあげることも考えつかなかった。
頭の中で危険という名の警告音がけたたましく鳴っている。
しかしこの状況をこのまま受け入れたいという欲望も同時に湧き上がっている。
そして俺は考えるのをやめて至高の世界に身を委ねることにした―――
吸って!吐いて!吸って!吐いて!マジでいい匂いがする!
「………ふごっ!?」
「杏ちゃん暴力はだめ」
視界が遮られて分からなかったが、どうやら俺の足を踏んづけたのは杏だったらしい。
そう、俺が危険だと思っていたのは杏の存在。
俺はたわわなおっぱいの世界から、鬼が島へと飛ばされてしまう。
もう少しだけ堪能させてほしかったぜ…
「あんたたちイチャイチャしてるんじゃないわよ」
「いちゃいちゃ?」
「ことみの乳が朋也の顔にあたってたのよ!」
「私のお父さん?」
「そっちの父じゃなくて、こっちのよ!」
杏は自らの乳を叩いてことみの間違いを訂正していた。
そこでようやくことみも状況を理解してくれたようだ。
昔から変わっていない。ことみも古河も国宝級の天然である。
「私のお乳が朋也くんの顔に?うーん… うわぁぁぁ!?」
「とっても恥ずかしいの///」
ことみは恥ずかしくて顔を赤らめていた。
俺の視線に居た堪れなくなったのか、次には背中を向けてしまったものの。
胸を腕で隠しながらも、俺の様子が気になるのかチラチラと振り向いてくる。
なんとも可愛らしい仕草だろうか。
そして俺はこの幸せな状況が不可抗力だと訴えるものの、あの杏が聞き入れるわけもなく。
坂上も加えて張り手のサンドイッチをいただくことになった。
今日は俺の誕生日だよな?
俺の嫌な予感は見事に的中。今日は厄日のようだ。
俺は赤くなっているであろう頬を擦りながら、唯一の幸せだった余韻を思い出す作業に耽ることにした。
ことみの乳。めちゃくちゃ柔らかかったなぁ…
できることなら触ってみたい…
「朋也!」
「おっ、おう… どうした?」
「ことみに厭らしい視線を向けてんじゃないわよ」
「そんなもの送ってない」
恐ろしい。すこぶる恐ろしいぜ杏ってやつは…
◇◇◇
久しぶりの茶番劇も終わり。しばらくしてのこと。
至れり尽くせりとはこのとこか。この様子だとこの後は素直に喜んでいいのかもしれない?
多少の不安を抱えつつも、俺は彼女達の働きっぷりを見ていることになった。
もちろん俺も手伝おうとしたのだがそれは彼女達によって阻まれた。
俺は家主としてドッと構えていればいいとのこと。
なんだか申し訳なくなってしまう。
そんなこんなで俺は有意義な時間を過ごすことになった。
しかしこの状況を壊そうとする輩が一人だけいた。
周りではいそいそと家事をしているうら若き乙女たちが沢山。
しかし一名だけ幼女が混ざっている。そしてその一名だけは俺の部屋をがさいれしだしていた。
何を探しているのかは不明。だが言わせてもらおう。『残念だがエロ本は巧妙に隠してある』
妙な直感が働いたのか数日前にエロ本一式は押し入れの奥深くへと隠していた。
流石の風子でもそこまでは行き着くまい。
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