第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章
その後は至って普通の誕生祝いとなっていた。
おいしい手料理を振る舞われて、率直な意見を伝えると作り手が妙に喜んでいたことが印象的だった。
そりゃあ丹精込めて作った料理を褒められれば嬉しいものだろうが…
まさかガッツポーズをするまでとは思わなかった。
友の不思議な行動はあれど、料理もおいしくいただけたことで十分誕生日を堪能できていた。
しかし坂上が最後に口にした言葉が俺の不安を思い起こさせてくれようとは…
「これで岡崎の心は―――」
いったいそのあとは何が続くのだろう?
なんとも不吉な言葉を残してくれたもんだ…
そしてとうとうプレゼントを貰えるタイミングとなった。
彼女達はそれぞれ俺にプレゼントを用意してくれていたようだ。
女の子7人がプレゼントを胸に抱えながら目の前にいる。
傍から見れば野郎が泣いて羨ましがる光景だろう。
そう、傍から見ればな…
俺も楽しい時間を過ごせていただけに油断していた。
魔の時間は鳴りを潜めつつ刻々と迫っていたのだった。
そしてとうとうその時はやってきた。
世の男に問おう。いきなり七人の美少女から夜伽を申し込まれたらどうする?
答え。一日一人ずつ楽しみやがれ。ちょうど七人で一週間を回せる。
うん、そいつが正解だ。好みで二人同時にチョイスしたっていい。
しかし、どうやら俺は究極の選択をしなくてはならないようだった。
いっそのこと現実逃避でもしてみようか…
「早く選びなさいよ!」
「まあまあ、お姉ちゃん焦らないあせらない」
残念ながらそれは杏の催促によって現実に引き戻されてしまう。
状況を確認してみよう。俺は誕生日プレゼントを貰えるはずだった。
しかし、どういうわけかまだ一つも貰えないでいる。
そしてあろうことか、嬉しいはずのプレゼントは現在。俺を苦しめようとしていた。
『一人は顔を赤らめつつぶっきらぼうに』『一人は申し訳なさそうな』
『一人は真剣な表情で』『一人はおっとりとした表情で』
『一人は満面の笑顔で』『一人は見返りを求めたような笑顔で』『一人は無垢な笑顔で』
いろいろな反応を示しつつ俺にプレゼントを渡してきた娘たち。
彼女らは共通して俺に変な台詞を口にしてきた。
『私のプレゼントを選んでください』だと…
「どういうことだ?」
俺の問いかけに答えたのは杏だった。
「プレゼントを貰えるのは一人だけ。朋也が選んだ人のプレゼントだけしか貰えない」
「なんだそりゃ…」
もらえるだけありがたいが、多少は不満が残る。
全員俺の為にプレゼントを用意してきたのなら、全員分くれればいいもの。
なんでそんな残酷な選択をとったのかが理解できない。
その疑問はすぐに解決してくれた。
「その…プレゼントを選んでくれたらね…その人と…///」
なぜ杏はこのタイミングで恥ずかしがっているのだろうか?
あの杏がモジモジしてクネクネする姿は… 明日は一足早い雪の到来を予見しているのだろうか?
杏はしどろもどろとなって説明を最後までしてくれない。
そんな杏を見兼ねて坂上が言葉を続けてくれた。
「もう建て前はよそう。私達が今日ここに来た理由」
「それは岡崎に『選ばれた子』はそのままこの部屋に『お泊り』できる権利が与えられることになっている」
「えっと… 今なんて言った?」
「お持ち帰りならぬ居座りだ。つまり誕生日プレゼントは『わ・た・し☆』というやつだな」
「うん、なるほど… まったく意味が分からないということだけは分かった」
一体全体、何故そんな事態になった。これは俺を巧妙に陥れる罠なのか?
「相変わらず岡崎は物分りがわるいな」
「この状況を理解できるやつがいればここに連れてこい…」
「なら考えるな。感じろ!」
無理を言ってくれるぜ…
「その…なんだ…?まさかここにいる全員が俺と一夜を共にする為に来たとか?冗談だよな?」
「なっ!?そんなわけないでしょ!朋也の変態///」
「坂上さんはそうかもしれないけど、あたしは―――」
『岡崎くん、実はお姉ちゃんったら勝負下着を穿いてきたみたいですよ』
「きゃー!何言ってるの椋!」
「勝負下着?そんな引導の渡し方は知らないぞ?」
杏はふんどしでも穿いているのだろうか?
ついに俺も天に召される時が来たのか…
「真剣勝負なんてしないわよ!普通に可愛い下着よ『か・わ・い・い』」
「ほほう、ちなみにどんな?」
「え?それはちょっと大胆に紐ぱんにして、控え目だけど可愛らしいフリルとかリボンとか」
「男の子が喜んでくれそうなものをね…」
「ふむふむ、そいつを俺に見せるつもりだったのか―――ぐぼべっ!?」
「なっ、なんてこと言わせてんのよ///」
「勝手にぺらぺらしゃべったんじゃねえか…」
俺は右頬の激痛の代わりに、杏の意気込みを知ることになった。
正直まだ半信半疑でならないが、どうやら杏は本気と書いてマジらしい。
いったいあの女といつなんとき、おれはフラグを立てていたのだろうか?
それに杏の反応を見ていると、とてもじゃないが俺に気があるとも思えない。
女心はまったくわからん…
◇◇◇
事の経緯を聞いてみると、本当に一夜を共にする前提でのプレゼント選びとなっていたそうだ。
俺の意思はそこにはないのか…
と、全員が納得のもとそれが行われることになったわけではなかったらしい。
言い出しっぺは坂上らしい。知らなかったなぁ… 坂上も俺に好意を抱いていたとは…
しかしこんな形で公開告白されても混乱するだけとは思わないのだろうか?
そして各々がどういう想いで参加したかというと―――
【古河渚ルート?】
古河は流されるまま参加。えっちなお願いを俺が要求してきたら拒否権を行使できるようになっていたらしい。
それならばと悪乗りに参加したそうだ。安心してくれ。そんな要求はしないはず。多分な…
そもそも古河は候補に挙げることはできないだろう。
なにしろ後ろに控えているバッターが怖すぎる。
金属バットで滅多打ちされたあげくに、毎日売れ残る奇抜なセンスのパンを腹いっぱい食したくはない。
俺だって命はおしい。
【宮沢有紀寧ルート?】
同じ理由で宮沢もだめだろう。強面のおにいちゃんを沢山相手にできるほど、俺は喧嘩に自信はないのでね。
どうやら彼女は面白そうだからこの奇抜なイベントに参加してくれたようだった。
随分俺も信用されているようだ。後ろ盾がなければ、俺は無難な古河か宮沢を選んでいたことだろう。
【藤林椋ルート?】
そういう理由なら藤林もいけそうだ。
姉さえどうにかできれば、藤林は最良物件の一つだ。
おれは藤林に視線を向けた。
「私、彼氏います」
「え?藤林って彼氏いたのか?」
「はい、だからお泊りは禁止の方向で」
なんてこったい。姉の動向を探りつつの妹選択は不可能となってしまった。
そしてやっぱり姉がからんできた。
「椋を選ぶつもりだったの!?」
「心配するな。お前がいるからそれはない」
「私がいるからって…それって…///」
だめだ。姉は完全に乙女モードに入ってやがる。話をいい方向に考えすぎ。
これ以上は触れるべからずとさせていただこう。
【伊吹風子ルート?】
次に俺はその隣を一気にスルーした。
選ばなければ天地がひっくり返ると言われても、そいつだけは選択するわけにはいかない。
俺のプライドがそれを許さない。
「今、風子に失礼なことを考えていましたね。岡崎さん」
「風子、知らないことが幸せってこともあるぜ」
「いったいどういうことでしょうか?」
俺に幼女属性はない。
あったとしてもそれは愛でる対象であって、けしてある欲求を満たす対象とはならない。
たとえばそう。芽衣ちゃんのような妹属性みたいなものだ。
妹に邪な感情は抱いてはならない。そういうものだろ?
それにもし風子を選んでしまえばこれも後が怖い。
俺はスパナで殴打されてお亡くなりになることが決定するのだろう。
仕事の先輩とは今後とも良好な関係を続けさせていただきたいものだ。
【一ノ瀬ことみルート?】
そして俺はおそらく最高の選択だと思う少女に目を向けた。
マシュマロ。あの感触が今も俺の脳裏から離れてくれない。
あれを堪能できるというのなら、ことみを選ぶのもやぶさかではないのだろうが…
「ともやくん?」
俺はこの無垢な少女を穢してよいものだろうか?
いいや、それは断じてならない!
ことみとはこれからも友達のままで居続ける。
餓鬼の時からの友情を、一時の感情で失うわけにはいかない。
………しかしあの乳は男の理性を壊しかねない狂気を秘めている。
おっぱいとは魔性のアイテムだぜ…
【坂上智代・藤林杏ルート?】
そうなると俺は好意を持たれている『杏と坂上』の二人の中から選ばなくてはならないようだ。
正直この二人から選ぶのは気が進まない。
一見すれば美少女の二人。しかし中身は揃って地雷を秘めている。
今はその地雷も鳴りを潜めているのだろうが…
いきなり好意を表明されても尻込みしてしまうのは、多分俺が童貞だからなのだろう。
別にお泊りされようが、取って食うつもりもない。
しかし万が一、俺の理性が保てなかったとすれば…
坂上は危ないと思う。彼女だと流されるまま情熱的な夜を過ごしてしまいそうで怖い。
坂上はやめておこう。
となると杏しか残っていない。
俺は杏なら大丈夫。そんな軽い気持ちで杏を選ぶことにした。
ただそれが後々ジワジワと、後悔という名の幸せを呼び込むことになろうとは―――
この時の俺は知るよしもなかった。
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